旧古河庭園(東京都北区西ヶ原)は、ジョサイア・コンドルが建築した洋館と、春と秋にはバラが咲き誇る庭園が有名です。バラの香りを楽しめるその時期に写真撮影や写生を目的に訪れたことがある人、もしくは訪れてみたいと思っている人も多いのではないでしょうか。
nbsp;
本郷通りに面した入り口。立派な門構えからも財閥の邸宅だったことがわかります
nbsp;
バラを楽しめる春(5月中旬~6月下旬)と秋(10月中旬~11月下旬)は、お出掛けするのに気候がよく、旧古河庭園は大勢の人で賑わいます。もちろんこの時期がいちばん見応えはありますが、「どうしてもバラを見たい!」というのでなければ、美肌茶房ではあえてその時期をはずし、オフシーズンの旧古河庭園に行ってみることを、今回はご提案します。
nbsp;
開園の午前9時を少しまわったころ、旧古河庭園に到着しました。訪れたのは2月上旬の土曜日で、晴天に恵まれた週末だったとはいえ、オフシーズンもオフシーズン。ほかに人の姿は見えません。
入り口からまっすぐ進んで行くと、洋館に辿り着きましたが、後で内部の見学をするので、洋館は外観をさらっと見て脇を通り抜けました。武蔵野台地の斜面と低地という地形を活かしてつくられている旧古河庭園は、北側の小高い丘には洋館、斜面には洋風庭園、そして低地には日本庭園がつくられています。
nbsp;
洋館のすぐそばの洋風庭園にはバラ園が広がっています。見る花はありませんが、刈込の美しさには目を見張るものがあります。バラ園から少し下がったところにはツツジ園があり、洋風庭園と日本庭園の間にツツジを挟むことで、ガラッと世界観が変わることなく、和と洋の調和が巧みに図られているのです。
nbsp;
見事な刈込! 職人魂と男気を感じます
nbsp;
日本庭園にある心字池には、うっすらと氷が張っていました
nbsp;
さらに下ると日本庭園に出ます。冬の朝の空気は澄んでいて、洋風庭園では感じられなかった、背筋が自然とシャンとするような張りつめた空気が日本庭園にはありました。塀の外を行き来する車の音が時おり聞こえるものの、気になりません。庭園のほぼ中心にある心字池に、氷が張っていたほど寒い冬の朝。カモが一羽泳いでいて、時々鳴き声が聞こえてきます。貸切状態の歴史ある日本庭園をのんびり歩いていると、最初は落ち着かなかったもののだんだんリラックスしてきて、神経が研ぎ澄まされていくのを感じます。
奥まった目立たないところでひっそりと咲いているツバキや、ふいに香りを感じて辺りを見回すとロウバイが咲いていたり、この季節にしか見ることのできない花も庭園内にはあります。
nbsp;
日本庭園をつくったのは京都の庭師・小川治兵衛ですが、ジョサイア・コンドルの洋風庭園にひけを取らない魅力的な庭です。見どころがいくつもあり、「大滝(おおたき)」は園内でももっとも勾配があるところを削って断崖にした滝で、樹林で覆って深山渓谷の趣を出した小川治兵衛が力を入れた場所です。また、「崩石積(くずれいしづみ)」は京都で発達した伝統的な石を垂直に積む工法です。石と石が噛み合って、崩れそうで崩れない姿が美しいとされています。角が立たないように言葉を濁したり曖昧なところが京都らしさだと思いますが、こんな石を積む工法にまで…。と捉えるのは少々偏りすぎでしょうか?!
nbsp;
崩石積。確かに今にも崩れそう!と思わせつつ、でも崩れない。むずかしい美意識です
nbsp;
大滝。その名前ほどの迫力はないけれど、日本庭園に滝をつくった庭師の心意気に脱帽です
nbsp;
花の少ない時期に目を楽しませてくれるツバキ
nbsp;
香りが良いロウバイは、離れていても気付きます
nbsp;
日本庭園の静けさと落ち着きが気に入ってゆっくりしていると10時になり、その頃になってようやく遠くの方に他の入園者を見かけました。年配のご夫婦や、一人で来られている50~60代の男性でした。寒い時期の週末、しかも午前中に庭園に来る若い人はそりゃいませんよね…。
nbsp;
そうこうしているうちに洋館建物の見学時間になりました。洋館見学は、事前に往復葉書での申し込みが必要な、今どきあまりないアナログ式。10日後以降の第3希望日時までを書いて送ると、当選?!葉書が後日届くのです。面倒ですが、この手間ひまをかけることで、葉書を受け取るワクワク感、当日までの楽しみ度が増すとも言えます。見学会は午前1回、午後2回の計3回行われていて、予約が少ない場合は当日募集もあります。私が参加した回は、事前に申し込みをしていたのは私だけ!マンツーマンで案内してもらえるのかと思ったら、当日参加3人が加わり4人での見学になりました。
nbsp;
見学は、係の人の説明を聞きながら各部屋をまわる約1時間コース。春と秋のバラが咲き誇るハイシーズンには、多いと40人にもなることがあるそうです。
説明によると、この土地はもと明治の元勲・陸奥宗光の別邸でしたが、宗光の次男が古河財閥の養子になった時に古河家が所有することになり(当時の建物は現存していません)、その後1917年(大正6年)に3代目当主の古河虎之助によって現在の建物と庭になったそうです。飾られていた3代目当主の写真を見ると、大正時代に多かったというスタイル(横分けの髪型に髭)だったので、まるで若い夏目漱石のようでした。財閥の当主でオトコ前、そのうえ身長が180cmもあったというのですから、庶民の年頃の娘さんたちは、きっと彼に夢中になっていたかもしれませんね。
虎之助さんは奥さんと子どもの3人でこの洋館で暮らしていましたが、その奥さんというのが、不二子さんという、なんと西郷どんの姪っ子でした。政略結婚の匂いがプンプンしますが、当時はよくあることだったのでしょう。
nbsp;
西洋庭園から見る洋館。中に立派な欄間(らんま)のある和室や仏間があるとはとても思えません
nbsp;
段差を解消するための鉄板にもバラ! 探せば他にもこんな隠れバラがあるかも?!
nbsp;
売店には様々なバラのスイーツがあります。いちばん人気はバラのようかん(!)だそうです
nbsp;
洋館を歩いていると、漆喰壁、壁紙、ドア、暖炉、襖など、ついつい手を触れたくなりますが、ここは美術館。直接手を触れることは一切できません。白い手袋をはめた係の人が、そのつど扉を開けて誘導してくれます。
斜面と低地を活かして洋館や庭がつくられていることの理由が、中に入って窓から外を眺めるとわかります。1階の洋室からは洋風庭園のバラを、2階の和室からはちょうど日本庭園を望めるように計算されているのです。
nbsp;
外観も内装もステキな洋館ですが、一つ難点を挙げるとすれば、スリッパを履いていてもコートを着ていても「寒い!」ということ。もちろん各部屋に立派な暖炉があるので当時は焚いていたのでしょうけれど、現在は使用しておらず、見学中は底冷えする寒さ。陽が差し込んでいるところに立ってわずかに暖をとりながら係の人の説明を聞いていました。
冬が寒いということは、夏はその真逆で、かなり暑いらしいです。オシャレだけど、レンガ造りは日本の気候に適していないということですね…。バラの咲き乱れる春秋ののどかな気候では感じることのできない、洋館の持つもう一つの顔。一体どれだけ暑いのか、真夏にまた来て体感してみたくなりました。
nbsp;
入園料150円で楽しめる、日常を離れた静寂空間での贅沢な時間を味わいにぜひ出掛けてみてください。少人数でゆっくり見られるオフシーズンの洋館見学は必見(洋館見学は別途525円が必要です)。帰りは売店に立ち寄り、バラのスイーツを買って帰るのもおススメですよ。を得て一度見てみたらハマる女性が続出するはず。まずはあなたから周りに発信しませんか♪
[su_note note_color=”#f6f6f6″]
インフォメーション
旧古河庭園は、洋館と洋風庭園を英国人建築家のジョサイア・コンドル、日本庭園を京都の庭師・小川治兵衛がそれぞれ手掛けたもので、西洋と日本が調和した歴史的な建物と庭園です。大正初期の庭園の原型を留める貴重な存在として、2006年に国の名勝にも指定されています。
[/su_note]
[su_note note_color=”#f6f6f6″]
●アクセス
東京都北区西ヶ原1-27-39
JR京浜東北線・上中里駅もしくは地下鉄南北線・西ヶ原駅より徒歩7分
TEL 03-3910-0394
詳しくは下記サイトをご参照ください。
http://www.tokyo-park.or.jp/park/format/index034.html
[/su_note]