名古屋市千種区に鎮座する高牟神社(たかむじんじゃ)は、平安時代の法令集『延喜式』にも記載されている由緒ある古社です。御祭神は高皇産霊神(たかむすびのかみ)と神皇産霊神(かみむすびのかみ)の二柱(二神)で、陰陽両面をあらわす「むすび信仰」の神とされています(後に応神天皇<誉田別尊:ほんだわけのみこと>も祭祀)。「高牟」という名は、尾張物部氏の武器庫が神社になったことからついたと伝えられています。「高牟」の「牟」は武器の象徴であった「鉾」のことで、その美称が「牟」。境内には古井戸があり、周辺の元古井(もとこい)や古井ノ坂(こいのさか)といった地名の由来となりました。
社殿正面の鳥居。大通りに背を向けるかたちで建っている
拝殿を正面からみた境内。撮影時は紅葉がきれいでした
高牟神社を参拝するうえで最も重要なのが、この古井戸です。古井戸の水は今も湧き続けており、「古井(こい)の水」と呼ばれる名水。大和朝廷の第15代天皇である応神天皇の長寿の祝水として産湯に献上したことで、延命長寿に霊験あらたかとされているのです。また、近年は「古井=恋」ということで、飲むと「恋が生まれる」とも言われています。そうした御利益に加え、実際にも日本名水百選に選ばれるほどの水質のため、水を汲みに訪れる参拝者が多いそうです。
手水舎の後ろが古井戸。古井戸から手水舎に水が流れている
龍の口から出る「古井の水」。必ず柄杓を使い、感謝の気持ちを忘れずに
名古屋で縁結び・恋愛運上昇といえば、以前にもこの欄で紹介した「恋の三社めぐり」でしょう。御神木の“連理木”で知られる「城山八幡宮」、“よりそい石”を撫でると願いが叶うという「山田天満宮(御嶽神社)」、そして高牟神社。まず、三社いずれにもスタンプ台紙が置いてあるので、その台紙に各社参拝するごとにスタンプを押してもらいます(スタンプ料各社100円)。スタンプが3つ集まったら、台紙に添付されている“願い文”に願い事を記入。最後は“願い文”と台紙を三社のうちいずれかへ持って行きます。“願い文”は神前に奉納、台紙には“恋愛運上昇印”が押され、記念品も授与されます。
*以前は「清明神社」が三社に入っていましたが、「山田天満宮」と入れ替わりました。
高牟神社の境内はこじんまりしていますが、摂社・末社が比較的多くあります。社殿正面の鳥居をくぐると、左先に手水舎(古井戸)。そのすぐ向かって左に北野天神社と高牟龍神社があり、奥には金比羅社や神明社、白山社などが並んでいます。正面に見える拝殿は屋根の中央部が丸い山型になった唐破風で、どっしりとした落ち着きを感じさせます。中には金と銀の狛犬が置かれているので、ちょっと覗いてみてください。本殿横の徳義稲荷社、祖霊社、秋葉社も、ぜひ参拝しましょう。稲荷社前に並ぶ小さな赤鳥居がかわいらしく、印象的です。大通りに極近いのですが、少し中に入っただけで非常に静か。保存樹のアベマキなど豊かな緑が心をリラックスさせてくれます。
北野天神社(向かって左)と高牟龍神社
北野天神社の牛。かなり撫でられているのが分かる
奥に並ぶ末社。手前から多賀社、金比羅社、厳島社、神明社、白山社、津島社
本殿横、奥に並ぶ末社。左から徳義稲荷社、祖霊社、秋葉社
そのほか、高牟神社は虫封じの「赤丸神事」でも有名です。子どもの頭のてっぺんに、朱墨のついた筆で小さく丸を書くというもの。この朱墨は、神酒で溶いてあるそうです。「子どもが元気に育つように」との祈りが込められており、毎年7月1日は親子連れでにぎわいます。
神社立札の説明によれば「昔、このあたりは『常世の草香島(とこよのくさかじま)』と呼ばれ、あちこちから清泉が湧き出ていたところで、後に井となり、元古井の地名の起こりとなったといわれ、その跡が今も神社の境内に残っている」(名古屋市教育委員会)そうです。こうしたことから、かつての古井村には恵まれた水にまつわる伝承が多く残っており、「古井伝説の地」と言われるようになりました。隣の旧丸山村も含め、周辺には歴史のある寺院がたくさんあります。歴史散策路として「古井の里と丸山村めぐり」のモデルコースも千種区役所のHPに紹介されているので、参考にしてめぐってみてはいかがでしょうか。
徳義稲荷社前の赤鳥居。古さは感じるものの、鮮やかさが残る
百度石。上のふくろうが何とも愛らしい
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アクセス
名古屋市千種区今池1-4-18
TEL 052-731-2900
JR中央線・地下鉄東山線「千種駅」下車 徒歩5分
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