新潟市には、以前紹介した高麗犬(こまいぬ)を回して願懸けをする「湊稲荷神社」のほかにも、願懸けの手法がちょっと変わっていることで知られる神社があります。今回は歩いて回れる神社を2社紹介します。
1社目は、香川県に鎮座する金刀比羅宮の分霊「金刀比羅(ことひら)神社」です。御祭神は大物主大神(おおものぬしのおおかみ)=金比羅大権現(こんぴらだいごんげん)です。金刀比羅神社は、越後国(新潟県)で廻船問屋を営んでいた鈴木弥五左エ門(すずきやござえもん)が建立したといわれています。香川県の金刀比羅宮の分霊を、なぜ新潟の廻船問屋の主が建立したのでしょうか。そこには不思議な物語があります。
文政4(1821)年8月、弥五左エ門の船「白山丸」が、出雲国(島根県)の大見崎沖で暴風雨に遭いました。乗船していた弥五左エ門の息子で船頭でもある三平を含む14名は、船が難破するのをなんとか防ごうとしましたが、どうすることもできません。諦めかけたとき、彼らは最後の望みを託してマゲを切り、神さまに祈願しました。すると、急に光が射し、白髪で白装束を身にまとい、手には金の御幣(神祭具の一つ。白い紙や布などを細長く切って木の棒にはさんだもの)を持った金比羅大権現が天空に現れたのです。それと同時に、さっきまでの暴風雨が嘘だったかのように空は晴れ、海は穏やかになりました。再び天空を仰ぎ見ると金比羅大権現の姿は消えていて、船には金の御幣が遺されていました。
弥五左エ門は常々、讃岐国(香川県)の金刀比羅宮を篤く信仰していたことから、14名が九死に一生を得た話を聞くと大変感謝し、遺された金の御幣を御神体として社殿を建立し、金比羅大権現をお祀りすることにしたのです。
不思議な話にはまだ続きがあります。当時、讃岐国の金刀比羅宮の本殿には金の御幣が5本安置されていましたが、いつの間にかそのうちの1本が消えていて、それがこの金の御幣ではないかといわれています。
拝殿には、明治30(1897)年8月に奉納された、金比羅大権現が現れて船を救った瞬間を表現した「難船彫刻絵馬」が掲げられています。タテ53×ヨコ153cmもの大きなケヤキ1枚板による浮き彫りで、昭和57(1982)年に新潟市有形民俗文化財に指定されました。彫刻の絵馬は珍しいうえ、神社が自社の霊験を参拝者に示すためにつくったというのも特徴的とされています。
このような物語がある金刀比羅神社ですが、ちょっと変わった願懸けというのは、狛犬に関係します。拝殿に向かう前に、左右に目を引く狛犬があります。足にひもがぐるぐる巻きにされている、その名も「足止め狛犬」です。足止め(悪所通い・夜遊び・家出人の早期帰宅)・商売繁盛(お客さんが離れないように)・酒断ち・タバコ断ち・賭け事断ち・縁結び(相手の心が離れないように)など、あらゆる足止めにご利益があるといわています。100円で「足止め麻ひも」をいただき、足止めしたい相手が男性の場合は向かって右側、女性の場合は左側の狛犬の足に麻ひもを結びつけます。これをしたうえで、さらにご神力をいただきたい、新しい縁を結びたい、つなぎ止めるだけでなく今の縁をさらに強くしたい人には、「結び守」もあります。そのほか、金比羅大権現にちなんだ「救いのお守り」もあります。中には社宝の版木から神主が一枚一枚刷り上げたというお姿絵が入っていて、困難から救ってくれるといわれています。どちらも人気のお守りです。
香川県の金刀比羅宮の分霊「金刀比羅神社」
足止め麻ひも
何重にも麻ひもで結ばれて動けない足止め狛犬
金比羅大権現にお参りし、足止め狛犬に麻ひもを結んだら、次は「明日の御神籤(おみくじ)」を引いてみましょう。明日の運勢を金比羅大権現に尋ねるおみくじです。おみくじの箱を振り、逆さまにして出てきた棒に書いてあることが、明日の運勢と金比羅大権現からのアドバイスです。こちらは無料なので、近所に住んでいたら毎日お参りして引きたくなるおみくじです。
「結び守」や「救いのお守り」などさまざまなお守りが並ぶ
毎日でも引きたい「明日の御神籤」
続いて2社目。足元の悪い雪道でなければ、金刀比羅神社から歩いて10分もかからずに行ける距離にある「開運稲荷神社」です。
慶安2(1649)年に長岡藩の蔵所(米蔵)の守り神として祀られたのがはじまりといわれる開運稲荷神社は、明治初期に蔵所は撤去されましたが、明治10(1877)年、現在地に移って大黒様と恵比寿様を一緒に祀るようになりました。そのため、今でも商業・漁業・海運・倉庫業に関係する人たちから信仰されています。
参道には「こんこん様」と呼ばれる一対の狐の石像があります。これが、開運稲荷神社を参拝したら注目したい狐です。明治時代のはじめ、出雲国の廻船が米を買うために新潟にやってきていました。往路は船が軽くて安定しないため、出雲石(出雲で産出される砂岩)をおもりとして船に積み込んでいました。こんこん様は、この石を狐の像にして神社に奉納したものだといわれています。いつの頃からか、参拝者はこんこん様の両足をなでた手を額に当てて、願懸けをするようになりました。また、この付近にはかつて遊郭があり、好みの客が逃げないようにと、こんこん様の足を麻糸でしばって祈った遊女もいたそうです。今では、こんこん様の両足をなでた手を額に当てると、商売繁盛、諸願成就のご利益がいただけるといわれています。
縁起の良い名前の「開運稲荷神社」
風化したのか顔が崩れてきている「こんこん様」
その昔、廻船でにぎわった湊町・新潟ならではのパワースポットめぐりを楽しんでみてはいかがでしょうか。
[su_note note_color=”#f6f6f6″]
アクセス
金刀比羅神社
新潟市中央区寄合町4579
TEL 025-222-7591
JR新潟駅よりバス「横七番町二丁目」下車、徒歩1分
開運稲荷神社
新潟市中央区四ツ屋町3-5132
TEL 025-222-9445
[/su_note]