江戸時代の御所人形の独特な世界観が味わえる「鎌倉・吉兆庵美術館」

0

観光で鎌倉を訪れたら、誰でも一度は通る小町通り。お土産物が売っていたり、飲食店が建ち並んでいたりする賑やかな小町通りに、老舗の和菓子店・宗家 源 吉兆庵はあります。その宗家 源 吉兆庵に併設されている鎌倉・吉兆庵美術館では、9月9日まで企画展「将軍が愛した御所人形」を開催しています。

 

美術館入口は、小町通りを少し入った静かな路地にあります

 

1~2階で企画展「将軍が愛した御所人形」を開催中

 

「御所人形」と聞いて、どんな人形なのかピンとくる人は少ないかもしれません。頭が大きく3頭身で、肌は真っ白、ふくふくとした体型で健康に満ちた愛らしい表情が特徴の人形…といえば、なんとなくどこかで見た覚えがあるでしょうか。
3頭身の人形と聞くと、子どもの遊び用の単純な人形かと思われるかもしれませんが、御所人形は、技術の高さと芸術的価値の高さから、日本人形の粋とされています。「御所」という名前は、御所人形はかつて京都で制作されていて、御所や公家の間で贈答品として重宝されていたことに由来しています。
裸で体に布を巻いていて、手や足を出している稚児の姿がオーソドックスな御所人形ですが、豪華な衣裳を着けたものや、能に見立てた能人形などもあります。展示品の中から、いろいろなタイプの御所人形をご紹介します。

 

御所人形『夫婦人形』
刺繍の衣裳や葵紋を染め出した長袴など、豪華で雅な衣裳から当時の武家の様子をうかがえる貴重なものですが、子どもが見たら怖がりそうな、高さが69㎝もあり迫力のある大きな人形です。夫婦を模しているところから、世継ぎの出生を願う徳川大奥の好みとして制作されたものです。大奥の女性は子どもを授かることを願い、このような人形を数多く愛好していました。また、子どものいない女性の心を慰めるものとしても、御所人形は存在意義があったとされています。歴史の授業では学べない、江戸時代を生きていた人々の生活や想い、リアルな部分も、人形を通して垣間見ることができます。

 

御所人形『夫婦人形』

 

         御所人形『金太郎』

 

御所人形『金太郎』
3頭身で白い肌、ふくふくとした体。金太郎を模してはいますが、スタンダードな御所人形の姿といえるでしょう。この人形は、13歳という若さで将軍職に就いたものの、21歳で亡くなった悲運の14代将軍・徳川家茂が所有していたものとされています。大型の裸童人形は珍しく、男子を祝う迫力に満ちた作品です。

 

武者人形『新田貞義の鎌倉攻め』
軍事物語として有名な「太平記」の名場面、元弘3(1333)年、鎌倉幕府を打倒するべく挙兵した、新田貞義の鎌倉攻めの一場面を表現しています。この人形は、江戸時代より約200年以上続く京都の老舗人形店・丸平大木人形店の作品です。気品あふれる表情、動きの要素を多く取り入れたものになっています。

 

武者人形『新田貞義の鎌倉攻め』

 

御所人形『住吉詣(光源氏と従者)』

 

御所人形『住吉詣(光源氏と従者)』
能楽を題材にして物語を表現した、能人形といわれるものです。能楽「住吉詣(すみよしもうで)」は、“光源氏”が住吉大社で“明石の上”と出会う場面を描いていて、その内容や華麗な装束から、能の舞台でも人気の高い演目です。
御所人形の中でも入念な作風を示す能人形は、制作された当時から珍重されていました。この人形は御所人形の中ではもっとも大型で、そのうえ衣裳も凝っていて、本格的な衣裳布を使い、本物と変わらない仕立てで縫い上げられています。葵紋ちらしの華麗な衣裳をみると、能楽に興味を持っていた将軍家の女房の注文で、幕府が江戸の人形師に命じて作成させたものとみられます。丹精込めてつくられている人形の姿からは、人形師の心と技量をうかがい知ることができます。

 

御所人形ではありませんが、江戸時代を知る要素の一つとして、豪華嫁入り道具も展示されています。
黒田家『松竹梅蒔絵厨子棚飾』は、黒田家の家紋が全体に散らされている大名調度品です。3代将軍・徳川家光の時代、大名公家間で行われる婚礼には、このような調度類に家紋を施して持参しなければならない制度があり、これは幕末まで続きました。
厨子棚、黒棚、書棚の3棚飾りを中心に、文房具、化粧具、遊戯具、飲食器、武具、屏風などの調度品を一式、嫁入り道具として制作し、搬入していました。厨子棚(ずしだな)は、3段で観音開き扉付きの厨子を2カ所に設けた、伝統的な様式を用いた棚のことです。厨子棚には、香道具、短冊箱、長文箱、歯黒箱、櫛箱、爪切箱などが揃っています。

 

黒田家『松竹梅蒔絵厨子棚飾』

 

3階は常設で、北大路魯山人の器などの作品を展示しています

 

現代の私たちが目にする人形とはあまりに異なるため、最初は御所人形の独特な世界観にのまれてしまいます。しかし、見ていくにしたがって人形に込められた当時の人々の想いや技術の高さを知ると、どんどん惹きこまれて細部まで目を凝らすようになること間違いありません。
古都・鎌倉で、徳川家ゆかりのさまざまな御所人形を通して、江戸時代に想いを馳せてみてはてはいかがでしょうか。

 

[su_note note_color=”#f6f6f6″]
インフォメーション

鎌倉・吉兆庵美術館は、菓子舗「宗家 源 吉兆庵」が、平成13(2001)年にオープンした美術館です。「和菓子の器として蒐集した作品を、皆さまに広くご覧いただきたい」との想いのもと設立されました。

[/su_note]

 

[su_note note_color=”#f6f6f6″]
●アクセス

神奈川県鎌倉市小町2-9-1
TEL 0467-60-4025
JR線「鎌倉駅」より徒歩3分

詳しくは下記オフィシャルサイトをご覧ください。

http://www.kitchoan.co.jp/site/museum/index.html

[/su_note]