「『織』を極める 人間国宝・北村武資」展

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北村武資(きたむらたけし)氏は昭和10(1935)年に京都で生まれ、77歳になる現在も精力的に活動を続けている、『織(おり)』の2つの技の人間国宝(人間国宝とは、重要無形文化財の保持者の通称)です。
昨年秋に京都国立近代美術館で開催され好評だった展覧会「『織』を極める 人間国宝・北村武資」展が、4月15日まで東京に巡回しています。北村さんの作品を間近で見られる絶好の機会!東京国立近代美術館工芸館(東京都千代田区)に行ってまいりました。

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工芸館は、旧近衛師団司令部庁舎として明治43(1910)年に建てられた建物を活用しています。明治時代の洋風レンガ造り建築の一典型として、重要文化財に指定されています

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北村さんは中学を卒業後、遠縁が京都・西陣で機(はた)仕事をしていたのがきっかけで、西陣の製織業に就きました。伝統と高度な技術で裏付けされ世界に名高い西陣織ですが、北村さんは生産現場で織物に関する知識や機織りなどさまざまなことを吸収し、その後独立。西陣で学び得た高度な織の伝統技術に、現代の感覚を活かして創作を続けてきた北村さんは、平成7(1995)年、60歳でひとつ目の重要無形文化財保持者に認定されました。「羅(ら)」という技術です。

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夏に着物姿の人を見かけても、あまり暑そうに見えませんよね?それは、着物の下に着ている長じゅばんが透けて見えるほど薄い織物、「絽(ろ)」や「紗(しゃ)」が一般的に夏の着物では用いられているからです。羅も繊細で透明感のある織物ですが、その歴史はとても古く、中国古代の2100年以上前の前漢にみることができます。1972年に中国で前漢のお墓が発掘され、日本でも写真展が開かれたほど世界中で話題になった世紀の大発見がありました。その写真展で、北村さんは発掘された棺の内張りに使われていた古代織の羅の写真を見て、強い興味を抱いたのが羅に挑戦しようと思ったきっかけでした。日本で羅は8世紀中頃にはよく見られたものの徐々に衰退の一途でした。しかし近代になって復活し、北村さんによってさらなる発展を遂げたのです。

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経錦は、遠くで、近くで、それぞれ角度を変えて違う表情を探すのが楽しい

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羅はタテ糸4本を組織単位としていて、1本のタテ糸を左右のタテ糸とからみ合わせて薄い網目状の生地にする技法です。北村さんはこの精緻な伝統技法を基本にしながらも、タテ糸の大胆な動きで「透文羅(とうもんら)」と呼ばれる独自の織を創り上げたのです。
会場の最後の展示室に、12枚・12色の羅の織物が天井近くから垂れ下げられ整然と並んでいます。それらはすべて透文羅です。後ろからライトが照らされ、くっきり鮮やかな織り目をみることができます。わずかな空気の動きにもほんのり揺らいでいて、透文羅がどれほど軽やかな生地なのかがわかります。

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《青緑地透文羅裂地》《萌葱地透文羅裂地》といった透文羅の作品名を見ると、頭には色名がついていて、例えば萌葱(もえぎ)は春に芽生えたばかりの若葉のような鮮やかな黄緑のことを指す色名です。そのほかには茜(あかね)、海老茶(えびちゃ)など、12枚それぞれに色の名前がついているのですが、すべて日本の伝統色名で記されていて、改めて日本語の語彙の豊富さ、響きの美しさにも気付かされます。

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《青緑地透文羅裂地》2000年/個人蔵

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《萌葱地透文羅裂地》2010年/個人蔵

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北村さんは、羅で認定された5年後の平成12(2000)年、65歳の時にふたつ目の重要無形文化財保持者に認定されました。「経錦(たてにしき)」という技術です。これも羅と同様に前漢の頃にはすでにあった古代織で、羅がごく薄い織物なのに対し、密度が高くつややかな光沢のある織物です。複数のタテ糸の浮き沈みの変化で、文様が織り出されています。
角度を変えて見ると《扇面尽し文経錦丸帯》は輝いて金色にも見え、扇が奥行き深くどこまでも終わりなく続いているように感じます。また、愛らしい柄の《桜花文金地経錦裂地》も、見る角度によっては無邪気な愛されピンクからシックな大人ピンクまで表情が変わります。タテ糸が複雑に交錯し合い、伝統の中にも躍動感のある現代の感覚がプラスされたことで生まれているのです。

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身にまとっても涼しそうな透け感があります

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西陣、織、人間国宝と聞くと、着物が好きな人はもちろん関心を持たれるかもしれません。しかし、それ以外の人でも見て楽しめる要素があります。着物、帯の状態に仕立てられている作品は多くありません。ほとんどが「裂地(きれじ)」という布の状態で展示されています。それらを“アートピース”と捉えてご覧ください。これは、計算されつくした、糸を複雑に交錯して創り上げたアートなのです。個人的に、作品によっては「こんな帯が欲しい!」という目でうっとり見てしまうことが度々ありましたが…。
展示ケースに入っている作品もあるものの、ごく間近で織り目を見られるものもあります。北村武資さんが挑戦し続けている織の世界を、ぜひ覗きにいってみてください。
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《扇面尽し文経錦丸帯》2003年/文化庁蔵

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《桜花文金地経錦裂地》1988年/個人蔵

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注)今回ご紹介しました作品、掲載写真の展示は1期終了の3月11日までで、3月13日~4月15日の2期には、一部を除き作品の展示替えが行われます。

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【参考文献】
『織』を極める 人間国宝 北村武資(京都国立近代美術館、東京国立近代美術館 /編集・発行)

 

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インフォメーション

工芸館は東京国立近代美術館の分館で、近代美術の中でも工芸およびデザイン作品を展示紹介しています。明治以降の日本と外国の工芸およびデザイン作品を収集し、約2900点(2010年3月31日現在)を収蔵。展覧会は所蔵作品展と企画展を行っていて、近・現代の工芸の様相を総合的に鑑賞することができます。

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●アクセス

東京都千代田区北の丸公園1-1
地下鉄東西線・竹橋駅より徒歩8分
TEL 03-5777-8600(ハローダイヤル)
詳しくは下記オフィシャルサイトをご覧ください。
http://www.momat.go.jp/

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