「世田谷」とだけ聞くと閑静な高級住宅街を真っ先に思い浮かべますが、そこに「ボロ市」と付くと「???」が頭の中で渦巻きます。「世田谷ボロ市」って、どんな催しなのでしょうか。
和美人になれる美術展では、これまで美術館や博物館などをご紹介してきましたが、今回はちょっと視点を変えてお届けします♪
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世田谷ボロ市は、毎年曜日に関係なく1月15・16日、12月15・16日の4日間、東急世田谷線の世田谷駅と上町駅の間で開催されている骨董市で、東京都指定無形民俗文化財にも指定されている都内で最も有名な骨董市です。
その歴史は古く、今から430年以上も前の1578(天正6)年に、小田原城主の北条氏が政治上、経済上で重要な場所だったこの世田谷城下に楽市を開き、物資の交易を促したのがボロ市のはじまりです。
その後、政治の中心が江戸城に移ると楽市は衰退していきました。楽市は近郊の農村のための農具市として歳末に行われる歳市になり、新年を迎える正月用品、雑貨等が売買され、ボロが農家の作業衣の補修用、ワラジの補強用に求められるようになったことから「ボロ市」という名になりました。
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大勢の人が行きかうボロ市通り
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売買されるものは様変わりしましたが、長い伝統は受け継がれ、衣類、玩具、日用雑貨、食料品など約700店舗が軒を連ねるほどの一大骨董市として現在も世田谷の町に息づいています。
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年に4日間だけの開催ですから、ボロ市会場の世田谷区立郷土資料館のある世田谷代官屋敷付近の通称ボロ市通りは、朝9時のはじまりから終了する午後8時まで、大勢の人でまさしく“ごった返し”ます。
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私がボロ市に着いた午前9時半。まだ商品を並べている最中のお店もありますが、次から次へとやってくるお客さんでどんどんボロ市通りは埋め尽くされていきました。
私が最初に覗いたのはやきものを並べているお店。その店の前で、おじいさんが角皿を手にして悩んでいる姿が目に入り気になったからです。目利きの人にはたまらない品があるのでしょう。近づいていくとちょうど値段の話をしていて、その角皿は1万2千円だそう。思わず横から「そんなに良い物なんですか?」と聞くと、店のおじさんは「伊万里の良い物だよ。この値段じゃ買いだよー」なんて、私というより悩んでいるおじいさんに聞かせる風に話してくれました。品出しで忙しい様子で、ざっくりした営業トークですが…。
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右下が、良い物?!らしい伊万里の角皿。どなたかの手に渡ったでしょうか?
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やきものでは、伊万里のほか益子焼のお店が多くありました
結局、おじいさんはしばらく悩んだあげく「他をまだ見てないから回ってくる」と言って去りましたが、その後どうされたのでしょう。ボロ市で出合う品はもちろんどれも1点モノ。悩んでやめて、思い直して戻ってきた時にまだあるかどうかは運しだい。
出合った時のインスピレーションをどこまで大事にするか、また購入するかどうかを決めるタイミング、価格との折り合いなどなど、骨董市では様々な葛藤が自分の中でグルグルします。普段の買い物とは全く異なり、自分の決断力の度量を試される場面に何度も遭遇するところが骨董市の面白さでもあります。
人出が多い分、食べ物の屋台もたくさん並び、寒いので甘酒やココアなど身体が温まる飲み物も人気ですが、ボロ市名物といえば、なんといっても「代官餅」です。1975(昭和50)年の発売開始以来、その場で蒸したつきたてのお餅を食べられるので老若男女に人気があります。あんこ、きなこ、からみ(大根おろし)の3種類あり、各600円。その場ですぐ食べられるようにテーブルもあります。
ボロ市の時にしか食べられないこの代官餅は、毎年売店には絶え間なく行列が続き、私が行ったときには1時間待ちの状態でした。購入して写真を!と思っていたのですが、とても1時間も並ぶ気になれずどうしようかと思っていたところ、売店近くで美味しそうに食べている親子がいたので写真を撮らせていただきました♪
代官餅の「しろ」と「あんこ」。私も並んで買えばよかった…と後悔するほど美味しそうです
お母さんはからみを食べようとしていて、男の子の口の周りはすでにきなこだらけ、お父さんの手にはあんこが載っています。「3種類とも買われたんですか?!」と驚く私に、お父さんは「4種類です!」と、しまっていたもう一つを出して見せてくれました。プレーンな「しろ」だそうです。「みんな頼まないけど、あるんですよ」と言うお父さんの顔は自慢げ。それもそのはず、「しろ」なんて看板には書いてませんから。自宅で好みの味付けで食べるとさらに楽しめそうです。
きっと代官餅を目当てにボロ市に来られたのでしょう。仲よくお餅を食べている姿がとってもほほえましかったです。
人込みをかき分けながらボロ市の隅から隅までいろいろなお店を見て回りましたが、途中とてもステキな買い物風景を見かけたので、そのお話を最後にご紹介します。
いかにも年代物のやきものや絵画のほか、現代のなんてことない鞄や雑貨まで乱雑においてあるお店で、50~60代のご夫婦が古くてちょっと取っ手が錆びついているものの、ガラス製のきれいなキャンドルスタンドを手に取っていました。
「夜、これでお酒を飲んだらステキね」「そうだね」なんて会話が聞こえてきました。それが家にあったらどんな風なのか、どう使おうかとしばらく話した後、お店の人と値段のやりとりがありました。
旦那さん「このスタンドはいくらなの?」
お店の人「これはガラスの中で揺れるロウソクの灯りがきれいなんだよ。6千円でいいよ」(値札には7千円がついていました)
奥さん「5千円にならない?」
お店の人「じゃあ間をとって5千5百で」
旦那さん「5千5百円ね」
とお財布を取り出して決まりました。
息の合った値段交渉もお見事ですが、自分たちの生活にこのキャンドルスタンドが加わったらどうなるかを想像して、これがあればさらに毎日が楽しくなる…そこまで考えて購入を決められたことが、傍でやりとりを見ていてステキだなと思いました。
骨董市には、新品のものから年代物まで、価格も安くてすぐ飛びつくようなものから何十万円もするものまで、ありとあらゆるものが並んでいます。その中で、自分の価値観に見合い、生活スタイルにも見合うものを選ぶ目が重要ですが、まずは自分の価値観、生活スタイルを改めて見直すきっかけになります。それがあると自分自身が豊かになれるような、本当に気に入るモノと暮らしていきたいですね。
世田谷ボロ市の他に、都内では富岡八幡宮や東京国際フォーラム1Fプラザで毎月骨董市が開かれています。東京に限らず全国各地にもたくさんあると思います。
普段の暮らしでは気づかない、自分の価値観や生活スタイルに出合える骨董市に出掛けてみませんか。
屋根にまで大胆なディスプレイ。よりによってそんな重いものを載せなくても…
1枚100円からあった手ぬぐい。何枚も手にしているお客さんもいました
ちょっと高いところでビリケンさんが輝いていました。連れて帰ってくれる人が現れたでしょうか
100円札や古銭には、中年男性や外国の方が見入っていました
パッと見、ガラクタ市。良いものがあるようには見えませんが、男性がスッと塗りのお皿を手に取り、店の人の言い値の2千円をあっさり支払い去っていきました。わかる人にはそれなりのモノがあるみたいです
ボロ市でたくさん見かけたのが和装用品。どこのお店も着物や帯を品定めする女性で賑わっていました
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●アクセス
東京都世田谷区世田谷1丁目周辺
最寄り駅:東急世田谷線世田谷駅・上町駅
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