パワースポットを訪ねる人には、そこへ行ってすがすがしい気持ちになりたいというような精神面のメリットを求める方がいると思います。また、金運や健康運、良縁を授かりたいなど物理的なご利益を得たいと訪ねる人もいるでしょう。後者の方が多いでしょうか。
でも、寺社仏閣を訪ねる以外にもご利益を求め人々が頼ってきたものがありました。その一つが縁起だるま。その発祥の寺、「少林山達磨寺」を今回は訪ねました。
大きなだるまの看板が出迎えてくれます
総門の通り、奥に見える長い階段を上り山内を進みます
黄檗宗(おうばくしゅう)は達磨大師の教えを受け継ぐ禅宗の一つで、中国から渡来した隠元禅師により開かれました。本山は京都にある黄檗山万福寺で、全国に450の末寺があります。
黄檗宗 少林山達磨寺はその一つで、群馬県高崎市内の南側、少林山に建てられました。
少林山の前を流れる碓氷川のほとりに昔、観音堂があったそうです。ある年、大洪水の後に村人たちが川の中から香気漂う古木を引き上げて、霊木として観音堂に納めておきました。延宝8年(1680年)一了居士という行者が霊夢によって訪れ、信心をこらして達磨大師の座像を彫り上げ観音堂にお祀りしました。この噂は「達磨大師出現の霊地・少林山」として近隣に広まりました。そして、その頃の領主は前橋藩を守護する寺として、少林山達磨寺を開きました。
だるまは禅宗の開祖、達磨大師に由来する置物、玩具ですが、現在では宗派に関係なく縁起物として広く親しまれています。今から200年ほど前、天明の飢饉の後に、寺の和尚がだるまの木型を作り、農家の副業に張り子だるまを作らせ、正月の七草大祭に売らせたところ評判となり、「縁起だるまの少林山」として知られるようになりました。現在も正月の6~7日には毎年恒例となった「高崎のだるま市」が行われます。毎年20万人もの人々が初春の縁起物を求めて集まります。
当山の本堂にあたるのがこの霊符堂です
両目が描かれた“福だるま”がたくさん納められていました
群馬県達磨製造協同組合によると、高崎市で生産されるだるまは地域ブランド「高崎だるま」として認定されているそうです。年間生産数はおよそ90万個、全国でも屈指の生産地なのです。上州名物を“かかあ天下と空っ風(からっかぜ)”と言いますが、冬に風が強く乾燥した気候はまさに達磨作りに適していて、農家の副業として盛んに行われてきました。
少林山達磨寺を訪ねて、もっとも印象的だったのは「達磨堂」です。個人から達磨のコレクションが寄贈されたことがきっかけとなり、昭和61年(1986年)に開かれました。達磨大師座像を中心に古今東西、いろいろな達磨が所狭しと展示されています。
縁起だるまの変遷ですが、最初は、開山した心越禅師の描かれた一筆だるまに似た「座禅だるま」でした。次第に繭の形に似た「繭型だるま」が農家に広がりました。蚕が当たり、農家も商人も繁盛して、段々評判になるにつれて形が丸く、起き上がりやすい「縁起だるま」の形となり一般にも普及していきました。
達磨大師の不撓不屈(ふとうふくつ)の精神、七転び八起きにあやかり、養蚕農家は蚕の起き(目覚めて4度脱皮すること)がよくなるよう、大当たりの祈願をするために、目を描かず願いを込めて片目(向かって右側)に塁を入れました。やがて蚕が繭を作ると、残りの片目にも墨を入れてお祝いしました。今も選挙の時、立候補時に左目玉を墨で入れ、当選後に右目玉を入れる風景がニュースでも見られますが、縁起をかつぎたい人の心は、今も昔も変わらないようです。
願い事を書くのは馬ではなく、だるまでした
ここは達磨堂、必見です!
日本中のだるまが集合したかのような“だるま博物館”のようです
中曽根、小渕、福田と歴代総理の巨大なだるまが、上から見下ろしていました
このお寺を語る時、忘れてならないのがブルーノタウトのエピソード。彼は1880年、ドイツに生まれた建築家で、当時流行していたジャポニズム、アールヌーボーに影響され、日本にも強い関心を持っていました。ナチス政権の台頭により身の危険を感じたタウトは日本の建築学会の招待を利用して妻と共に日本へ亡命しました。日本では建築家の仲間に連れられて全国を旅し、日本独自の建築や工芸、文化に出会い、理解を深めて行きました。その途中、この少林山達磨寺の境内にあった「洗心亭」に2年3か月もの間、長期滞在することになりました。彼は滞在中に、地元の方々と交流を深め、数々の著作を通して自然と調和した日本建築や文化の素晴らしさを世界へ発信していきました。彼が滞在した洗心亭は今も残され、境内各所にはタウトゆかりの思い出が紹介されています。
縁起物のだるま発祥のお寺、どうぞ訪ねてみてください。
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アクセス
黄檗宗 少林山達磨寺
群馬県高崎市鼻高町296
TEL 027-322-8800
高崎駅からバス20分
http://www.daruma.or.jp/
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