地方の新聞社が手掛ける未来へ向けた森のデザイン、十勝千年の森

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“千年の森”とは何とも気になる名前をつけたものです。ある雑誌で初めて見てから、ずっと気になっていました。少し調べてみると、どうやら地元の新聞社グループが森を経営しているらしく、さらに興味は深まりました。この夏、北海道へ行った時に、思い切って足を伸ばしてこの目で確かめてきました。

 

「北海道ガーデン街道」には、富良野から十勝へと続くルートに沿って点在する7つのユニークな森や庭が名を連ねています。十勝千年の森も、その一つ。

 

清々しい、手入れが行き届いた森の小道。

 

北海道の帯広市を中心とする十勝地方、ここで地元の人に「勝毎(かちまい)」の愛称で広く読まれている地方紙「十勝毎日新聞」があります。これを発行する十勝毎日新聞社が「十勝千年の森」の経営母体なのです。
新聞は紙で出来ていて、その紙を作るには木材を伐採しなければなりません。新聞発行を続けるということは、森林伐採を続けることにもつながると十勝毎日新聞社のトップは考えました。そんなジレンマの中で、社是でもある地域と共に歩むことを考えた末に、たどり着いたのは、森を再生する事業にチャレンジすることでした。それも単に自然を保護するのではなく、本格的な森林事業で、土地の歴史や自然の植生を研究し、将来へ向けて林業と農業と観光を融合させるという壮大なプロジェクトを手掛けることになりました。

 

森の奥から流れる小川、なんとも心地良いせせらぎの音。

 

セグウェイのツアーもあり、少しコツを学べば簡単に乗れるらしい。とても静か。体験乗車も10分からあります。

 

“千年後の人類への遺産となる森をつくる”という、未来への意思表明から名付けられた庭。十勝平野の植生を生かしながらも、人が丁寧に手を入れて伸び伸びと育つ森と、繊細にデザインされた現代的な庭がゆるやかに交わり、互いを引き立て合う。無農薬のキッチンガーデンや果樹の育成など美味しく安全な食にも取り組む、まさに実験的なテーマパークなのです。

 

十勝毎日新聞社の想いは、北海道を拠点に全国で活躍する造園づくりに実績豊富な高野文彰氏と、英国人の世界的なガーデナー、ダン・ピアソン氏のコラボレーションにより実現され、2008年にグランドオープンしました。そして、森の再生とデザインは今も続いています。

 

水を浄化・中和し、匂いを吸着する性質のある麦飯石。この森は麦飯石の上に乗っているそう。そのせいか森に入ると、なぜか気持ちが落ち着き、癒された気分になりました。

 

まるで野生のように見える元気な花々。

 

“千年の森”という名が付いていますが、実際に訪ねて歩いてみると、森の中から様々な庭が次から次と出現する不思議なパークのようでした。ダイナミックな地形そのものを楽しむ、見晴しの良い「アースガーデン」や、野生の花たちが自然に群生しているかのように演出された「メドウガーデン」、様々な野菜が育ちヤギとヒツジが草を食む「ファームガーデン」など。自然そのものの「森」と、自然と人を結びつけるための「庭」、さらに人の生命を支える「農」が有機的に配置されているのです。

 

オオウバユリ、開花まで8年かかるそう。

 

牧場では100頭以上のヤギが飼育されていて、チーズやヨーグルトを作っています。

 

敷地のあちらこちらには、オノ・ヨーコら現代芸術のアーティストが手掛けた作品が点在していて、それを歩きながら探したり。さらに、体重移動だけで動かすことの出来る乗り物「セグウェイ」のツアーもあり、家族でもカップルでも、誰と来ても楽しく過ごすことができるでしょう。

 

東京ドーム約43個分の敷地内(250ha)には、ヒグマ、エゾシカ、エゾリス、エゾモモンガ、キタキツネなどの野生動物も多くいるそうです。深い森は、280種を超える植物や70種の樹木などいろいろな生き物を養っています。観光で訪れる短時間ではその一部しか見ることはできませんが、自然の中で大いに五感を刺激されます。

 

ヤギたちと触れ合いもできるので、子どもも大喜び。

 

霧の中で、優美な大地の線と森が交わる。とても広くて、一度では全部を見ることできませんでした。

 

自然、林業、農業、芸術が融合する、まったく新しい森をデザインする取組みに、世界からも注目が集まっています。十勝方面に行った時には是非立ち寄ってみてください。

 

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アクセス

北海道上川郡清水町羽帯南10線
TEL 0156-63-3400
JR「十勝清水駅」よりタクシーで15分
詳しくは下記オフィシャルサイトをご覧ください。

http://www.tmf.jp/
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