武信(たけのぶ)稲荷神社は、医療施設である延命院と学問所である勧学院の守護神をお祀りする社として貞観元年(859)、当時右大臣であった藤原良相(ふじわらよしすけ)が手をつくし創設した神社。その良相が長として一族の命名を行っていたこともあってか、いつの頃からか名づけ・命名にご神徳のある社として知られるようになりました。
実際、当神社では新生児の名づけや店舗の命名、姓名判断や改名の申し込みを随時受け付けているようです。
鳥居前
参道。脇には稲荷神社おなじみの狐の像
もちろん当神社の神威が名づけ・命名だけに限定されないのはその名の示す「稲荷」からも容易に推測することが出来るでしょう。つまり伏見稲荷大社を総本山とする稲荷大神への厚い信仰。古くは稲生り(いねなり)と称され、とりわけお米の出来を司る神として尊崇されていたのが、文化の発展、技術の拡大、それに伴う社会の変遷で、今では人の生活全般を守護する神として稲荷大神は参詣者に多種の御利益を授けてくれています。
また当神社の稲荷信仰にあっては創建の頃よりとりわけ暮らしや健康にその祈念が深く、参れば家内安全、健康長寿、病気平癒、交通安全、火難、盗難などに大きなご利益・ご加護を授けてくれます。
信仰の象徴とされているのが神社に古くから伝わる将棋の駒のような形をした勝駒(絵馬)。この勝駒にはご祈祷による特殊な力が込められ、その名が示すよう重要な局面で人を勝利に導くご利益を授けてくれます。加えて「病気に打ち勝つ」「学問に勝る」「子宝に勝る宝はない」との意も勝駒は併せ持ち、広く多方面にわたる神威は、人が人生をたくましく生き抜くためのエネルギーを十全に満たしてくれるようです。
ちなみに勝駒に塗られた朱色(あけのいろ)はみたまの働きを象徴する生命の色、並びに神のご加護によって到来する福を現す色だとされていて、過去にあっては豊臣秀吉がその福と力を授かるべく朝鮮出兵の際、この朱色の勝駒を持参したとの話が今に伝わっています。
本殿。奥に2つ見えるのが勝駒
榎と枝で作られた龍。榎は旧京都最古で最大の霊樹だとされています
稲荷神社ではおなじみの宝玉を加えた狐の像を横目に鳥居を抜け伸びる参道を歩いていると、程なく本殿横に枝葉を四方に広げた巨大な榎が見えてきます。末社宮姫社の御神木でもあるこの榎は高さ23メートル、胸高幹周りが4メートルでその樹齢は850年に達しています。それゆえかこの巨木には健康長寿に多大なご利益があるようで、榎の木に触れた手で体をさすると患う病が解消されるのだそうです。
加えて榎は“えんの木”とも読まれることから宮姫社は縁結び・恋愛成就のご利益があるとされてもいます。これに関連して、この榎の巨木には坂本龍馬とその妻おりょうの実に心温まるエピソードが今に残っているのです。
江戸時代、命を狙われていた龍馬はその身を隠すべくおりょうの元を一旦離れます。しかし程なく連絡手段は完全に絶たれ、これに心配を募らせたおりょうは龍馬の行方を探すも見つからず、絶望の面持ちで過去に何度も二人で訪れた武信稲荷神社の榎に参ってみれば、その幹には龍馬独特の字体で「龍」の文字が。実は龍馬もおりょうの身を案じ、どうにかして自分は無事であることを伝えたいその一心から「龍」の一文字を掘っていたのです。龍馬の考えでは二人ゆかりの場所でもある神社の榎に痕跡を残せば、それを見たおりょうはきっと何かを感じてくれると思ったのでしょう。
実際、その後、龍馬の意を了解したおりょうは、共通の知人を通じて彼と再会を果たしています。連絡手段が限られても、愛が純粋に通じていれば必ず道は開かれるということなのかもしれません。
龍の姿をした大枝、間近で見るととても迫力がありますね
宮姫社
龍馬の彫った「龍」の文字は残念ながら今では消えていますが、その代わりに、榎の前には長さ十数メートル、太さ1.5メートル程の「龍」の姿を模した大枝が据えられています。これは平成25年8月に折れて落下した大枝を、チェーンソーアート世界チャンピオンである城所ケイジ氏がデザインしたもの。神の榎の力強さ、神々しさを引きだしてもらいたいとの制作依頼に応え、木肌、質感はそのままに、ご神木ありのままの力強さ、神々しさが表現されています。また龍の腹部には炎のような印が認められ、これは稲荷神社の神紋とされていますが、デザインによるものではなく、もともとそこに刻まれていた印であるようで、龍が神の枝から生まれたことを物語っています。
釘抜大明神。釘抜さんを撫でると病気を治していただけます
白蛇社
武信稲荷神社は比較的小さな神社でした。しかし見るべき場所は非常に多く、実に密度の濃いパワースポットであると印象を持ちました。境内では他にも撫でると病苦を解消する釘抜大明神、参れば企業商売の繁盛、技術技芸の上達にご利益のある白蛇社などが据えられていますので、神社を訪れた折には上に挙げたスポットと併せて是非参ってみてくださいね。
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アクセス
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