眼病封じのお寺「壺阪寺」

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明治時代に作られた浄瑠璃の演目に「壺阪霊験記」というお話があります。今を遡る事300年以上前、とある村に座頭の沢市とその妻お里が暮らしていました。関係は仲睦まじく、貧しいながらも盲目の身である沢市が琴三味線を教えるなどして生計をたてていました。
そんな沢市の心に、ある日を境に一つの不安が生まれます。午前4時に決まってお里が床を抜け出しどこかへ出かけてしまう。この奇怪な彼女の行動に、沢市は妻の浮気を疑ったのでした。やがて直に問いただした沢市に、彼女は慌てる素振りを露とも見せずこの3年間あなたの目の病が治るよう壺阪寺の観音様に願掛けをしていたのよと打ち明けます。疑った自分を強く恥じる沢市は、その日より妻と一緒に観音詣りを始めました。

 

仁王門。平成10年の台風により屋根が半壊、平成15年壷阪寺開創1300年を期して解体修理が行われました

 

ところが詣でを重ねるたびに、盲目である我が身が妻にとって重たい足かせになっているのではと深く悩み始めます。やがて意を決した沢市はお里を実家に帰らせた後、自らは滝壺に身を投げてしまうのでした。結局知らせ聞いたお里も後を追うようにして身を投げてしまうのですが、二人のせつない夫婦愛に感得した観音様はその霊験によって二人の命を助け、同時に沢市の目を開眼させたのだそうです。

 

沢市とお里が詣でた壺阪寺の十一面千手観音菩薩像は、現在本堂である八角円堂に安置されています。上の「壺阪霊験記」にもあるよう、壺阪寺の観音様は古来より眼病に霊験あらたかな観音様として知られています。通称「目の観音様」としても親しまれてきたのは通常目を閉じているはずの表情が壺阪寺の観音様だけは目を見開いていることに由来しているようです。そのご利益にあやかるべく歴代の名だたる天皇も、眼病治療にこの寺へ訪れました。

 

お里沢市象。二人が身を投げた谷の側に建てられています

 

壺阪寺が眼の不自由な人にとっての聖地としてあるのは「養護盲老人ホーム慈母園」の存在抜きにしては語れません。この地に住みたいと願う老人たちの想いに応じることこそが真の福祉であるとの考えから、昭和36年に日本で最初の養護盲老人施設として誕生しました。「思いやりの心を広く深く」を合言葉に今でもこの地を拠点とし様々な福祉事業を行っています。

 

養護盲老人ホーム慈母園

 

その一つに挙げられるのが昭和40年より始まったインドハンセン病患者救済活動。インド各所において奨学金事業、公衆衛生事業、地域開発事業など様々な国際交流を展開しています。壺阪寺の各所に立つ複数の巨大な石像は、まさにこの国際交流の広がりから生まれたものなのです。

 

例えば天竺渡来大観音石像もその一つ。昭和58年3月開眼のこの石像はハンセン病救済事業のご縁でインドからご招来したもので、その全長は20メートル、全重量は1200トンにも及んでいます。もちろん20メートルもの巨岩をインドから運び出すことは出来ないので
初めに66個に分割したうえ彫刻し、日本に運んで組み立てられました。その事業にはおよそ7万人ものインドの石工が携わり、その彫像過程は全て手作りで製作されたようです。

 

天竺渡来大観音石像

 

天竺渡来大涅槃石像も上の石像と同じく、ハンセン病救済事業のご縁により製作された巨像。全長8メートルにも及ぶこの涅槃像は弟子に全ての教えを説き終えた、間もなく入滅する釈迦の姿を表現しています。ちなみに釈迦の最後の説法は「自灯明(じとうみょう)・法灯明(ほうとうみょう)」と呼ばれ、他者に頼らず、自分と法を拠りどころとして生きることを説いています。

 

天竺渡来大涅槃石像。背後に聳えるのが天竺渡来大観音石像

 

その他、広大な境内には「天竺渡来大釈迦如来石像」、「めがね供養観音」など壺阪寺ならではといった巨像が至る所に据えられています。小さな「お里沢市像」と比較して眺めてみるのも面白いですね。

 

天竺渡来大釈迦如来石像。世界中で起こった暴力や中傷などで痛んだ心を癒やすため建立されました

 

めがね供養観音。古いめがねやコンタクトレンズが台座に奉納供養されています

 

天竺渡来沸伝図レリーフ「釈迦一代記」。高さ3m、全長50m、重さ300tの巨石に釈迦の道が描かれています

 

禮堂。寺の創建当初からあるお堂で重要文化財に指定されています

 

八角円堂。日本初の八角円堂ではないかとの説があるようです

 

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アクセス

奈良県高市郡高取町壺阪3
TEL 0744-52-2016
近鉄吉野線「壺阪山」駅より奈良交通バスにて「壺阪寺前」バス停下車すぐ
詳しくは、下記オフィシャルサイトをご覧ください。
http://www.tsubosaka1300.or.jp/index.html
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