赤えいの絵馬に病気平癒を祈る「長田神社」

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神戸三社詣(「生田さん」の生田神社、「楠公さん」の湊川神社)の一つに数えられるのが「長田さん」の愛称として親しまれている長田神社。その創建は古く、日本書紀によれば神功皇后摂政元年(201)、三韓を征服した皇后が新羅から難波に帰還の途上に武庫の水門(みなと)で船が進まなくなった時、突然事代主(後に恵比寿と同一視)の神から「吾が御心を長田の国に祀れ」とお告げがあったため、山背根子(やましろのねこ)の長姫がこの地に社を築いたことを始まりとしています。

 

古来より皇室や武門の尊崇厚く、延長5年(927)にまとめられた延喜延喜式神名帳では名神大社、祈雨八十五座に列され、鎌倉末期にあっては北朝の足利尊氏につき協同して南朝の楠木正成の退路を断ったエピソードが今に残っています。同じく神戸三社の一つである湊川神社との因縁が垣間見えるところですね。

 

西鳥居前

 

明治29年には官幣中社に、そして1995年の阪神淡路大震災では境内が甚大な被害を受けながらも参集殿を避難所として開放し、被災した市民を心から支えたことでも脚光を浴びました。2000年の夏には境内も復旧し、翌年には事代主神の鎮座1800年を祝いました。

 

本殿。長田神社の神門、拝殿、本殿は神戸市内で唯一被災を免れました

 

「鶏鳴の聞こゆる里は、吾が有縁の地なり」

 

つまり鶏の鳴いている場所が私に縁のある土地であるとの意。そのお告げに従い、指定の場所を探していたところ、現在境内のある付近で鶏が鳴いていたためこの地に社を築きました。そのため鶏は長年、長田神社の神使いとされ、かつては数百もの鶏が境内に放たれていました。日本へ訪れた外国人からは「チキンテンプル」の名で呼ばれていた時期もあるそうです。私が取材に赴いた日は残念ながら雨で、鶏を生で見ることは叶いませんでしたが、拝殿の蟇股(かえるまた)には鶏と思しき彫刻が施されているなど、その神使いとしての存在感は今も昔も変わることはありません。

 

本殿瑞垣内には八幡社に応神天皇(本殿向かって左側)が、そして天照皇大御神社に天照大御神(本殿向かって右側)が祀られています

 

数々のエピソードに名社の貫録を漂わせる長田神社ですが、更に以下では二つの有名なエピソードを紹介しましょう。

 

参集殿と儀式殿に囲まれた中庭には夜泣き石と呼ばれる富士山に似た巨大な石が据えられています。昔、長田から明泉寺の谷を通り、須磨の白川へ通じる山道を歩むことを長坂越えと呼んでいました。その長坂の道の脇に富士山そっくりの石を発見した村人たちはとても有難がり、せっかくだからこの石を長田神社に奉納し庭石にしてもらおうと思いたちます。村人が力を合わせて長田神社まで運んだ巨石を見た神主は、しかし寺の庭石としてではなく、我が家の庭石として利用させてもらおうと家へ石を運ばせました。その夜、庭からシクシクと泣く声が。誰が泣いているのかと連夜に渡り見張っていると、「シクシク、シクシク、長田へかえろ、長田へかえろ」と聞こえてきました。ようやくそれが石から発せられていることに気付いた神主は、石の表面がじっとりと濡れた巨石を長田神社に戻すことを決意します。以来、石のすすり泣く声は聞こえなくなったのだとか。この夜泣き石、外から眺めることが出来ない場所にあるため、見たい、写真に収めたい場合は、社務所にお尋ねの上案内してもらってください。

 

夜泣き石

 

長田神社を訪れたならば本殿裏手にある末社の楠宮稲荷社(くすみやいなりしゃ)に足を運んでください。社の裏には樹齢が800年にも及ぶ御神木の楠(幹回り5メートル、 樹高30メートル)が聳え、その周りには赤えいの絵馬が多数奉納されています。

 

楠宮稲荷社。赤えい絵馬奉納の起こりは1892年頃だとされています

 

赤えいと楠の関係については以下のお話が伝わっています。
境内脇の台風で増水した苅藻川(かるもがわ)を遡ってきた赤えいの群れがひたひたと境内へ入り込み、これを見つけた村人たちは捕獲しようとするも御神木の付近で見失ってしまった、爾来、この楠は神の化身である赤えいの宿る場所として信仰の対象となりました。

 

御神木楠

 

元々、瀬戸内海に多く遊泳する赤えいは安価で貴重な蛋白源として重宝されていました。同時にその赤えいをあえて断って諸願を掛けることが痔疾に効き目があるらしいとの噂が広がっていました。やがて長田神社の赤えいの宿る楠が痔疾平癒に多大なご利益の得られる場所として注目され始めると、いつの頃からかその末社である楠宮稲荷社は「痔の神様」として徐々にその名を高めていったのでした。取材時にも中央に赤えいの印字された可愛らしい絵馬が御神木の透垣に多数奉納されている光景が印象的でした。

 

蛭子社と出雲社の間に据えられた恵比須さまと大黒さまの彫像

 

夫婦楠。東鳥居の脇に二本仲睦まじく並んでいます。神戸市天然記念物に指定

 

本殿瑞垣内には八幡社に応神天皇(本殿向かって左側)が、そして天照皇大御神社に天照大御神(本殿向かって右側)が祀られています

 

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アクセス

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TEL 078-691-0333
地下鉄西神山手線 長田駅、阪神電気鉄道神戸高速線 高速長田駅より徒歩7分
詳しくは、下記オフィシャルサイトをご覧ください。
http://nagatajinja.jp/html/
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