甑岩へ安産祈願「越木岩神社」

0

東六甲山唯一の霊地である越木岩神社(こしきいわじんじゃ)の創建は古く、確かな年代は不詳ですが、今を去る事千数百年前の延喜式神名帳に大国主西神社との記載があることからそれが当社のものだと推察され、つまりは少なくとも平安時代初期には既にこの地に社殿が鎮座していたものとされています。
歴史を通じ幾度か社殿は再建され、現在の片削破風流造(かたそぎはふながれづくり)の実に見事な本殿は昭和11年に完成された構えで、その中には明暦2年(1656)に円満寺の僧であった教順が西宮神社から勧請した蛭子大神がどっしりと鎮座しています。

 

大鳥居。淡路大震災により焼け落ちるも平成8年に再建

 

若林参道

 

蛭子大神といえば福をもたらす神として有名な七福神の一柱ですね。俗に北の戎とも称され、元はヒンドゥー教の女神サラスヴァティーであったのが仏教、神道に取り込まれて弁財天と呼ばれるようになりました。七福神の中では紅一点であり、その微笑をたたえつつ琵琶を奏でる美しい姿から、古来より諸芸上達の神様として厚く新興されてきた経緯があります。また江戸の頃より縁日の巳の日に弁財天へ参詣し、御礼をもらうと財産を築く事が出来るとされたことから、別称「蓄財の神」としての顔も併せ持つようになりました。

 

ちなみにこの弁財天、仏教の本地垂迹に基づき元は市杵島姫(いちきしまひめ)大神が習合したもので、その市杵島姫は天照大御神と素戔男尊(すさのおのみこと)が天真名井(あまのまない)で交わした誓約の折に、素戔男尊の剣から生まれた五男三女神のうちの一柱であるとされています。その三女神は別称宗像の三女神とも称され、わけても市杵島姫は群を抜いての美人であったことから、参れば美容美徳のご利益にあやかれる神様として厚く信仰されてきました。現在では三女神のうちこの市杵島姫だけを祀る神社もあるほど人気を集めている女神様です。

 

上記のことから越気岩神社は特に商売繁盛、女性守護の力みなぎる社となっています。実際、境内に足を踏み入れただけでも硬質な空気が肌を滑り、国の天然記念物に指定されている森の中の参道を歩いている間にも、刻一刻と私の体内に新鮮な生命力が注入されているような感覚を味わえました。こうした感覚が決してまゆつばものでないのは、神社の境内に据えられた「甑岩」のエピソードを確認すれば納得できますでしょう。

 

本殿

 

岩社。背後に迫るのが甑岩

 

今を遡ること400年程前、大阪城の石垣を築くために、全国より大きく丈夫な石を見つけ出しては大阪へと運んでいました。そんな折、当地の甑岩を目にしたとある殿様が「あんな大きな石なら城の石垣にすれば、さぞ見事なものであろう。是非もっていって手柄にしたい。早速切り出せ」と家来に命じます。それを耳にした村人たちは祟りを恐れて、白い龍神様の住処とされた岩を割って運ぶ出すことに必死になって抵抗します。ところが耳を貸さない役人はそのまま石切職人たちに続行を命じました。岩にノミを激しく打ちつけるたび火花を散らし鳴り響く槌音、当初は小さかったのが次第に山あいにこだますほどに大きくなって、程なく岩の裂け目から白い煙がもくもく立ち始めます。やがてその煙が白から黄、そして赤、青、黒へと変わるやそれらが入り交じり、最後には耳がはりさけんばかりの爆音を立てて激しく吹き出しました。その噴出する熱にやられた職人たちは手足を震わせ苦しみながら斜面を転がり落ちて死んでしまったそうです。

 

・照る日かな 蒸すほど暑き 甑岩
             山崎宗鑑

 

本殿の裏側、岩社参道を道なりに沿って進んだ先に鎮座する甑岩は周囲約40メートル、高さ19メートルの大霊岩で、どの角度から眺め見ても不思議な霊力に満ち満ちた気配を醸しています。その名は酒米を蒸す時に使われる「甑(こしき)」に似ていることに由来しています。また神社の御神体でもあるこの甑岩も御祭神同様、参れば女性守護、とりわけ子授かり、安産のご利益があるようですね。

 

甑岩

 

山崎宗鑑の句碑。「照る日かな 蒸すほど暑き 甑岩」

 

子授かり、安産に関連し、越木岩神社では毎年9月、秋季例大祭奉祝行事として泣き相撲と称するイベントが開催されます。子供を授かったことに感謝し、以後の健やかな発育を祈願しつつ、神聖な土俵で大地に素足をつけることで災いや悪霊を払いのけることが出来るのだそう。ちなみにこの泣き相撲、越木岩神社に限らず日本の神事として主に幼児の成長や安産を祈る目的で度々執り行われてきました。当社では先に泣いた子を勝ちとしていますが、地域によっては先に泣いた子を負けとしたり、勝敗関係なくとにかく子供を泣かせることを主眼にしているケースもあるようです。公式サイトを見ると参加資格は首がすわっていて、2歳くらいまでの男女とありますので、その年齢の子供やお孫さんをお持ちであるのなら一度参加を検討されてみるのもよいですね。

 

大阪城の残石。石には天守閣に本丸や二の丸の石垣を築いた大名の刻印が見られます

 

北の磐座。甑岩が女性神であるのに対し、こちらは男性神であるとの説があります

 

[su_note note_color=”#f6f6f6″]
アクセス

兵庫県西宮市甑岩町5-4
TEL 0798-31-0009
阪急甲陽線『甲陽園駅』下車 徒歩約15分
詳しくは、下記オフィシャルサイトをご覧ください。
http://www.koshikiiwa-jinja.jp/
[/su_note]