仏舎利が奉安された日本で唯一の超宗派寺院〜名古屋市・覚王山日泰寺

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名古屋市千種区にある覚王山日泰寺(かくおうざんにったいじ)は、仏舎利、つまり釈尊(お釈迦さま)の遺骨を奉安(安置)するために創建された寺院です。こう書くと、「仏舎利が奉安されているお寺は、ほかにもあるのでは?」と思う人もいるかもしれませんね。確かに、舎利塔や舎利殿などは各地の寺院で見られます。しかし“正真正銘の仏舎利”が奉安されているのは、日本ではここ日泰寺だけなのです。

 

日泰寺山門。比較的新しく、1986年に完成した

 

少し歴史をさかのぼってみましょう。

 

1898年(明治31年)、イギリス人のウィリアム・ペッペが、ネパール国境に近いインド北部で人骨の納められた古い壺を発見しました。その壺には紀元前3世紀ごろの古代文字が刻まれており、解読したところ、人骨が仏舎利であることがわかったそうです。そこで、当時インドを支配していたイギリスは、壺と若干の副葬品をインドに残し、仏舎利は仏教国であるシャム(現タイ)へ寄贈。仏舎利はさらにそこから、ビルマ(現ミャンマー)やセイロン(現スリランカ)などへ分与されました。

 

仏舎利が日本に贈られたのは、1900年(明治33年)のことです。この仏舎利を奉安する寺院をどこに建立するかについては、仏教各宗派の代表間でもなかなか意見がまとまらなかったとか。しかし結局、官民一致で誘致を行った名古屋に決まり、1904年(明治37年)現在地に建立されました。山号の「覚王山」は、釈尊を表す「覚りの王」から。また、当初は日本とシャム(暹羅)との友好を象徴して「日暹寺(にっせんじ)」と名付けられましたが、シャムが国名をタイに変更したことに伴い、1942年(昭和17年)「日泰寺」と改称されました。

 

仏舎利は、宗派を超えて何よりも大切な、価値あるもの。そのため、日泰寺は日本で唯一、どの宗派にも属さない全仏教徒のための寺院となったのでした。現在は19宗派の管長が、輪番制によって3年交代で住職を務めているそうです。

 

さて、実際に訪れてみると、やはり一般的な寺院との違いをところどころに感じます。まず、山門の両脇にある像。多くの場合は睨みを利かせた仁王像ですが、日泰寺では優しい顔をしたお坊さんが立っています。ともに釈尊の弟子で、向かって右側が阿難(あなん:晩年の釈尊に二十余年仕え、最期を看取った)、左側が迦葉(かしょう:弟子の最長老で、釈尊滅後の仏教教団を率いた)。高さ4.5メートル、楠一木造りの立派な像で、その迫力に圧倒されつつも心が穏やかになっていくように感じます。

 

山門を守る像。向かって右側に立つ「阿難」

 

山門を守る像。向かって左側に立つ「迦葉」

 

山門をくぐると、広い境内の正面に本堂があります。残念ながら取材時には工事をしていたのですが、中の御本尊を参拝することはできました。御本尊は、仏舎利とともに贈られたタイの国宝・釈尊金銅仏。1000年の時を経たとは思えない美しさに、しばし見惚れてしまいます。

 

御本尊の釈尊金銅仏。両脇にかかる絵は、日本画家・故高山辰雄の作品

 

本堂前向かって左側には、仏舎利を日本に贈ってくださったタイのチュラロンコン国王(ラーマ5世)の立像もあります。日タイ修好100周年にあたる1987年(昭和62年)に建てられたもので、像の前にはワチラロンコン皇太子お手植えの木、海紅豆(かいこうず)が深紅の鮮やかな花を咲かせていました。

 

チュラロンコン国王の像

 

肝心の仏舎利はどこかと言えば、本堂から少し離れた奉安塔に納められています。日泰寺の敷地は広大なうえ二箇所に分かれているので、本堂周辺から大きなバス通りを挟んで北東に位置する奉安塔・舎利殿まで3分ほど歩くことになります。奉安塔は、日本や中国の仏塔の祖形と考えられているガンダーラ様式。高さ15メートルもあり、全国でもまれに見る一大石造塔です。柵があるので間近に見ることはできませんが、その前の拝殿からお参りしてください。

 

高さ30メートルの五重塔。中には写経が納められている

 

奉安塔と舎利殿への入り口

 

拝殿の奥が奉安塔(1918年完成)。仏舎利は2階部分に納められている

 

境内周辺には、多くの石仏やお堂などが並んでいます。これは、1909年(明治42年)から大正初めにかけてできたという弘法大師四国八十八ケ所霊場を模移したもの。毎月21日の縁日に各札所が開かれるので、回ってみるのもおもしろいでしょう。縁日にはそのほか、境内と参道に屋台がたくさん出店されます。普段は静かな雰囲気ですが、この日ばかりは多くの人で賑やかに。見て歩くだけでも楽しくなります。

 

奉安塔拝殿前にある釈尊の像。入滅する様子を表した涅槃像と思われる

 

山門前にある「覚王山新四国八十八ケ処」一番札所

 

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アクセス

名古屋市千種区法王町1-1
TEL 052-751-2121
地下鉄東山線「覚王山」駅下車 徒歩5分
詳しくは、下記オフィシャルサイトをご覧ください。
http://www.nittaiji.jp/
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