モザイクタイル壁画の魅力を再発見〜世界のタイル博物館「壁のパブリックアート」展

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世界のタイル博物館外観。ミュージアムショップやイタリアンレストランもある

 

愛知県常滑市のINAXライブミュージアム「世界のタイル博物館」で、3月15日(日)まで企画展「壁のパブリックアート」が開催されています。1960年代前後のモザイクタイル壁画に焦点をあて紹介。東郷青児や加藤金一郎らによるモザイクタイル壁画の現物3点に加え、作品制作の過程がうかがえる下絵や原画も展示しています。また、本展が初公開となる岡本太郎のモザイクタイル画「太陽の神話」の貴重な原画も見どころです。

 

20世紀の壁画は、1920年代から30年代かけて起きたメキシコの「壁画運動」から始まります。メキシコ革命下、メキシコの歴史や民族のアイデンティティを壁画で表現することで、文字の読めない民衆にも広く伝えることが目的でした。ひと握りのブルジョアが所有する従来の絵画と違い、だれもがいつでも見ることのできる壁画は、その意義や手法などが欧米にも広がっていきました。

 

壁画運動を主導したメキシコの画家のリベラやオロスコは、一時期アメリカに渡り、そこでも制作を続けています。当時、アメリカは大恐慌に陥っており、ニューディール政策の一環として「連邦美術計画」を推進中。失業した芸術家を救済するため、公共施設に設置する壁画や彫刻がさかんに作られたのです。この頃に「パブリックアート=公共空間における芸術作品」の概念が生まれ、60年代以降、急速に発展していきました。日本でも東京オリンピックから高度経済成長期にかけて、岡本太郎ら多くのアーティストが意欲的に制作に取り組み、壁画の黄金時代を迎えたのでした。

 

このような時代を背景に、伊奈製陶(のちのINAX、現在のLIXIL)は、戦後間もなくして1センチ×1センチのタイルを使って絵画のように表現できる商品「アートモザイク」を発売。東郷青児や高井貞二、生沢朗、野口弥太郎といった著名な画家と組み、数々の壁画作品を生み出しました。耐久性に優れ、色彩に富むタイルは、公共の場を飾る壁画に非常に合った素材でした。

 

杉本美術館外観。本館のレクチャールームからは伊勢湾を望むことができる

 

展示室に入ってすぐ右前に、1947年、羽田空港ロビーに完成した壁画(写真)があります。日本における戦後初のモザイク壁画とされる「平和の女神」。中央に山海の珍味を盛った皿を掲げた女神、左側に日本列島、右側にアメリカ大陸とニューヨークの摩天楼が描かれています。すでに現物はなく、今となっては原画が生沢朗によるものであること、伊奈製陶(ほか間組と丸西タイル)のタイルが使われていること以外、どのような経緯で作られたかなど詳細は分からないというから残念です。しかし、ここから日本の新たな壁画が始まったのだと思うと、感慨深いものがあります。

 

展示室に入ったところ。右に見えるのが、羽田空港ロビーにあった壁画(写真)

 

箱根にある富士屋ホテルの大浴場に飾られていた東郷青児の「裸婦」や、加藤金一郎の「しまうま」など実物を間近に見ると、いかに考えてタイルが並べられているかがよく分かります。色むらを生かした配置、目地にも色がつけられるなど、タイルが小さいだけに、その細かい作業や美しさに溜め息が出るほどです。また、岡本太郎「太陽の神話」の原画は修復されたばかりで、美しく大胆な色使いが印象的。岡本はとくに赤の表現にこだわっていましたが、焼き物は赤の発色が難しく、自分のイメージ通りになるよう苦心したそうです。

 

東郷青児「裸婦」

 

加藤金一郎「しまうま」

 

壁画作品3点や原画、下絵などの展示のほか、定点撮影した映像で各地の壁画を紹介しています。壁画と、その前を通り過ぎていく人たちを見ているうちに、過去と現在、未来が交錯するような感覚に。それだけ壁画が、時を経て日常に溶け込んでいるということでしょう。ぜひ作品を通して、当時の息吹、そしてタイル壁画の魅力を感じてください。

 

左から、岡本太郎「太陽の神話」(1952年/個人蔵)原画、そのモザイクタイル画の写真、岡本太郎モザイクタイル画「創世」の制作現場写真

 

「湖畔」。まるで刺繍のクロスステッチのよう

 

イナ アートモザイックカタログ3号(1952年発行)

 

常滑市は、常滑焼で有名です。その“やきもののまち”で、INAXライブミュージアムは体験・体感型ミュージアムとして、やきものの歴史や文化、美しさ、楽しさを伝えています。「世界のタイル博物館」のほか、「窯のある広場・資料館」「建築陶器のはじまり館」「土・どろんこ館」「陶楽工房」「ものづくり工房」の6館で構成。体験教室やワークショップも開催しています。3月14日(土)14:00~15:30 には、モザイク作家の喜井豊治さんによる講演会「パブリックアートとしてのモザイク壁画」を開催予定。詳しくはホームページでご確認ください。

 

タイル絵付けやモザイクアートなどを体験できる「陶楽工房」(要予約)

 

予約なしで体験できる「自由空間」(陶楽工房内)も。気軽にオリジナル作品を作れる

 

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インフォメーション

INAXライブミュージアム「世界のタイル博物館」は、タイル研究家の山本正之さんが1991年、常滑市へ約6000点のタイルを寄贈したことに始まります。それらの管理・研究と一般公開を同市から受託したINAXが、1997年に博物館を建設。2007年には展示コンセプトのリニューアルを行い、現在に至ります。「装飾する魂(たましい)」をテーマにした1階常設展示室は、5500年前のクレイペグ、4650年前のエジプト、世界最古のタイル、イスラームのドーム天井など時代と地域別の装飾タイル空間を再現。2階常設展示室では「時空を超えるタイルたち」をテーマに、紀元前から近代までのタイルコレクションの中から約1000点を展示、装飾タイル発展の歴史を紹介しています。

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●アクセス

愛知県常滑市奥栄町1-130(INAXライブミュージアム内)

TEL 0569-34-8282

名鉄線「常滑」駅または中部国際空港より、知多バス「知多半田駅」行き「INAXライブミュージアム前」下車徒歩2分

詳しくは、下記オフィシャルサイトをご覧ください。

http://www1.lixil.co.jp/museum/

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