肉筆浮世絵を一堂に観られる貴重な機会〜松坂屋美術館「肉筆浮世絵の美」展

名古屋市中区の松坂屋美術館で、11月24日(月・振休)まで「氏家浮世絵コレクション設立40周年記念 肉筆浮世絵の美」展が開催されています。一般に浮世絵と言えば版画を思い浮かべる人が多いでしょうが、本展で紹介する作品はすべて肉筆です。葛飾北斎、懐月堂安度、勝川春章、月岡雪鼎、歌川広重など約60点を展示。いずれも鎌倉国宝館でしか一堂に観ることのできない名品ばかりです。

 

美術館は、松坂屋南館7階にある。エスカレーターを上ってすぐ

 

館内は照明を落とし、非常に静かで落ち着いた空間

 

展覧会チラシ(表)。上部の絵が、葛飾北斎「酔余美人図」

 

はじめに「氏家浮世絵コレクション」について簡単に説明しておきましょう。同コレクションは、昭和49年(1974)10月1日、多年にわたって肉筆浮世絵の蒐集につとめてきた故・氏家武雄氏と鎌倉市とが協力し、鎌倉国宝館内に設置された財団法人です。平成24年(2012)4月1日付けで公益財団法人に移行されました。氏家氏は、昭和初期に製薬会社を設立し、日本の医療医薬に大きく貢献した人です。若い頃から美術に関心を持ち、なかでも肉筆浮世絵の蒐集と保護・継承、そして貴重な文化遺産としての認識を広めることに力を注ぎました。版画と異なり一品制作である肉筆は、数がそれほど多くありません。そのため、とりわけ海外への流出防止に心を砕いたそうです。

 

同コレクションは、国内の美術館・博物館はもとより、フランス、ドイツ、中国の美術館にも出品され、高い評価を得ています。しかし、このような文化遺産を個人の努力で後世に伝えるには自ずと限界があるなどの理由で、前述したように財団法人の設立に至ったわけです。私的コレクションと公立博物館とが相互協力し、文化遺産の保護にあたった先駆的な事例と言えましょう。

 

いくつか作品を紹介するとすれば、例えば菱川師宣の「桜下遊女と禿図(おうかゆうじょとかむろず)」。満開の桜の下、盆を捧げ持つ禿と振り向く遊女の姿が、師宣独特の構図で描かれています。遊女のしなやかな姿態と桜の幹の曲線とが呼応し合って美しく、また色とりどりの着物の花文様にも目を引かれます。月岡雪鼎「しだれ桜三美人図(しだれざくらさんびじんず)」も、桜の季節を描いたもの。花見を楽しむ女性三人の、着物の文様や彩色の配置が見事に計算されています。また、表情豊かな指先から漂う色香も秀逸です。

 

懐月堂安度「美人立姿図」

 

月岡雪鼎「しだれ桜三美人図」

 

奥村政信「当流遊色絵巻(とうりゅうゆうしょくえまき)」は、その名の通り吉原遊楽の始終を描いた絵巻物。隅田川の船下りの場面から始まり、遊郭内の宴席の様子など実に楽しげです。その華やかさに、観覧客からは「すごーい」といった声も聞こえました。対照的に、落ち着いた色調なのが歌川広重「高輪の雪・両国の月・御殿山の花図(たかなわのゆき・りょうごくのつき・ごてんやまのはなず)」。高輪・両国・御殿山という江戸の三名所に雪月花を合わせた叙情性豊かな三幅対です。淡彩によって演出された静寂、景色の半分を占める空が余韻を誘います。

 

歌川広重「高輪の雪・両国の月・御殿山の花図」

 

葛飾北斎「蛸図」

 

何と言っても見逃せないのは、やはり葛飾北斎でしょう。本展のチラシにも大きく掲載されている「酔余美人図(すいよびじんず)」は、代表作の一つ。三味線箱に寄りかかる芸妓の姿態を画面対角線上に配置し、酔いのまわった心の機微を巧みに表現しています。着物の色彩も見事で、傍らに置かれた杯の朱色も効果的です。北斎の作品は15点あり、ほかにも、雪が降るなかで長槍を持ち蓑笠を頭上にかざす武人を描いた「雪中張飛図(せっちゅうちょうひず)」、鷲の鋭い眼光が印象的な「桜に鷲図(さくらにわしず)」、北斎漫画を思わせる滑稽な「大黒に大根図(だいこくにだいこんず)」や「蛸図(たこず)」など実に多様。北斎の旺盛な創作意欲を垣間見られます。

 

会場出口付近にずらりと並ぶ、松楽斎眉月や清谷の役者絵もぜひ。小品ながら当時の役者が個性的に描き分けられており、観ていて楽しくなります。見開きのものには、片面に役者の似顔絵、もう片面に和歌や画賛などが記され、なかには役者自身が書したものもあるそうです。

 

宮川長春「男女対語図」

 

西川祐信「美人観菊図」

 

喜多川歌麿「かくれんぼ図」

 

肉筆浮世絵を観て驚くのは、その色彩の鮮やかさ。古いものだと300年以上経つにもかかわらず、保存状態が良いこともあり、美しいままに当時の人々の息吹を感じることができます。画家が筆で描いた、肉筆画ならではの筆致や色感は見応え十分です。

 

インフォメーション

松坂屋美術館は、平成3年(1991年)松坂屋名古屋店の南館オープンとともに開館しました。所蔵品は持たず、国内外の絵画や博物、工芸、アニメーションなど幅広いジャンルの企画展を数多く開催しています。名古屋市中心部の繁華街に位置するため、アクセスが非常に便利。また、松坂屋でのショッピングもついでに楽しめます。

 

●アクセス

名古屋市中区栄3-16-1(松坂屋名古屋店 南館7階)

TEL 052-264-3611

地下鉄名城線「矢場町」駅 地下鉄通路直結(5・6番出口)

地下鉄東山線・名城線「栄」駅 16番出口より南へ徒歩5分

詳しくは、下記オフィシャルサイトをご覧ください。

http://www.matsuzakaya.co.jp/nagoya/museum/