「敦井美術館」で見る近代陶芸のパイオニア、楠部彌弌(くすべやいち)の偉業

新潟駅から歩いてすぐの好立地にある敦井(つるい)美術館では、9月27日まで「近代陶芸の開拓者『楠部彌弌』」展を開催しています。
現在約1,400点の美術品を所蔵している敦井美術館は、1983年、新潟市の事業家だった敦井榮吉氏が95歳のときに開館しました。自宅の床の間に飾って楽しむために美術品を収集していましたが、その数が1000点にも上ったことから、広く一般の皆さんにも見てもらおうと考え、つくられた美術館です。敦井氏は現存作家と親交を深めながら収集していたので、コレクションに古美術品は少なく、近・現代の陶芸作品や日本画、洋画、彫刻、木漆工芸品など多岐にわたっているのが特徴です。

 

新潟駅から3分の好立地にある敦井美術館

 

館内は広くないものの、敦井榮吉というコレクターの目を通じて収集された作品はレベルが高く、どれも見ごたえがあります

 

数ある所蔵品の中でも、約半数を占めるのが陶芸作品で、板谷波山(いたやはざん)、富本憲吉(とみもとけんきち)、楠部彌弌ら文化勲章を受章した3巨匠のコレクションが充実しています。敦井氏は京都出身の楠部彌弌と深い交流があったことから、同館には約60点もの作品が残されています。今年は楠部彌弌の没後30年にあたることからそれを記念して、本企画展では厳選した37点を展示しています。

 

15歳で陶芸の道に進んだ楠部彌弌(1897-1984)は、日本・中国・朝鮮のあらゆる陶芸技法をマスターしながら、亡くなるまでの約70年もの間、作品をつくり続けてきました。なぜそこまで貪欲に技術の習得に励んだのでしょうか。
「楠部さんが書いた色紙に、“無限”の文字が遺されています。その言葉をモットーに、自分自身をもっと高めようと作品づくりをされていました」と渡辺新太事務局長が話してくれました。

 

美術作品が映える、現代の住宅では姿を消しつつある床の間や違い棚

 

   『色絵 笹文 盒子(1958年)』

 

会場を見て回ると、すべて一人の作家の手によるものとは思えないほど、バラエティに富んだ作品が並んでいます。天皇陛下のご成婚の際に宮中に納められた『白梅文』の姉妹作である『色絵 笹文 盒子(1958年)』のように重厚な作品があるかと思えば、半世紀も前の作品とは思えないほどモダンな色とデザインを持ち合わせた『碧玉釉 包 花瓶(1969年)』もあります。昨日できたばかりの作品と言われても不思議ではない、時代を感じさせない『碧玉釉 包 花瓶』は、夫人が風呂敷で箱を包んでいるのを見た楠部彌弌が、その形にヒントを得て制作しました。釉薬と安定感のある姿形が合体した、造形的作品の代表作として高く評価されている作品です。
『釉裏紅 魚文 花瓶(1972年)』は、小さな魚が描かれている作品です。これを見ると、楠部彌弌は絵を描く能力も優れていることがよく分かります。暑い季節に床の間に飾ると、見る人に涼を運んできてくれる、日本人の感性に訴えかける作品です。

 

   『碧玉釉 包 花瓶(1969年)』

 

   『釉裏紅 魚文 花瓶(1972年)』

 

さまざまな技法を習得した楠部彌弌ですが、それだけにとどまらず独自の技法も確立しました。“彩埏(さいえん)”という技法です。磁器の土に絵具顔料を含ませ、筆に付けて文様部分に塗っては乾かし、それを何度もくり返します。そうすることで色がついて盛り上がり、立体感や中間色のやわらかい色を表現できるのです。
彩埏の名品の一つが、『彩埏 惜春 花瓶(1979年)』です。美しい花が花瓶の前後2面に描かれたこの作品には、悲喜こもごもの制作秘話があります。この作品を制作する前年、楠部彌弌は文化勲章を受章し、11月3日に宮中に参内して表彰されました。その喜びもつかの間、1週間後に最愛の夫人を亡くしました。翌年、日展に向け気力をふり絞って完成させたのがこの作品です。片面には夫人への鎮魂の白い花、もう一方には文化勲章を受章した喜びを表す明るい花が描かれています。

 

   『彩埏 惜春 花瓶(1979年)』

 

楠部彌弌がつくるものは、技法は違っても作品の出来にばらつきがなく、どれも優れた完成度の高い作品です。繊細な絵柄や色使いのものだけでなく、一見モダンに見えるものでも、どの作品にも共通して彼が生まれ育った雅な京都感が漂っています。その彼の内面を知るエピソードとして、後進の作家たちに言っていた言葉があります。「まず人間づくりをしなさい。作品にはつくる者の人間性が出る」と常々言っていたそうです。数々の賞を受賞し、偉業を成し遂げても決しておごることなく、技術の習得に励んでいた彼の言葉だからこそ、響いてくるものがあります。
本企画展からは、楠部彌弌が近代陶芸のパイオニアと言われる理由とともに、彼の優れた人間性も知ることができます。

 

インフォメーション

敦井美術館は、敦井産業の創業60周年を記念して昭和58(1983)年に開館しました。創業者である故敦井榮吉氏が収集した、横山大観、菱田春草など日本を代表する巨匠の作品をはじめとする所蔵品は現在約1400点にも上り、所蔵品だけで年4回の企画展を開催しています。

 

●アクセス

新潟市中央区東大通1丁目2-23北陸ビル
TEL 025-247-3311
JR新潟駅万代口から徒歩3分

詳しくは、下記オフィシャルサイトをご覧ください。
http://www.tsurui.co.jp/museum/