河内文夫×小出賀子 夫婦のたしかな絆が満ちている「知足美術館」

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新潟県庁にほど近い場所にある知足(ちそく)美術館では、8月28日まで「河内文夫×小出賀子 夫婦の絆」展を開催しています。河内文夫(かわうちふみお、1939-2008)さんが亡くなって7回忌にあたることから企画された同展では、夫婦の油彩画をはじめ、河内さんの素描集とスケッチブックが展示されています。

 

禅林句集の「吾唯足るを知る」から取り、己の分をわきまえ、おごりの心を持たないことを意味する「知足」と名付けられた知足美術館

 

壁面の総延長が約50mもある、入口から奥まで全体を見渡すことができる長方形の展示室

 

新潟県柏崎市に生まれた河内さんは、同じく新潟出身で千葉県流山市に在住していた故笹岡了一氏に師事していました。千葉県出身の小出賀子(こいでしげこ、1940-)さんも同門だったことから、2人が結ばれたのは自然な流れだったことがうかがえます。同門で生活をともにしていた2人ですが、その作風はまったく異なることが、展示されている96点から見てとれます。河内さんは主に聖書や宗教を題材にしていたのに対し、小出さんは身近なものに視点を置き現在も精力的に描いています。

 

壁面には小出さんの油彩画、下には河内さんの素描が展示されています

 

知足美術館に寄贈された河内さんの作品『岸辺B』(1964、油彩)

 

絵ひとすじだった河内さんが遺した数々の作品の中から、夫のいろいろな面を見てもらいたいと小出さんが作品を厳選し、展示指示を行った同展。聖書や宗教、死生観を題材にした作品のほか、“仮面舞踏会”シリーズや“旅”シリーズなども展示されています。河内さんのアトリエを整理していたら、ひょっこり出てきたという未発表の作品『悲しみ』『埋葬(A)』『埋葬(B)』(いずれも1970頃、油彩)も並んでいるので必見です。

 

素描の中には、河内さんが出身地・新潟を描いた作品もあります。『山古志村の闘牛』や『蒲原まつり』は1980年代初頭の作品で、新潟出身者でなくとも、幼少時代を思い出しそれぞれの故郷に思いを馳せらせるノスタルジックな作品です。

 

アトリエから発見された、河内さんの未発表作品も並んでいます

 

オフィスの一角、予備展示室では「河内文夫素描展」を開催中

 

企業の別棟で開館した知足美術館は、渡り廊下で結ばれている社屋内に、予備展示室も構えています。床材、壁面、照明など明らかにオフィス仕様の展示室に入ると、先ほどまでいた美術館の雰囲気とあまりに違いすぎていて驚きますが、作品を見はじめるとすぐにそれも忘れてしまいます。無機質な空間がかえって作品への集中力を高めてくれるのでしょう。

 

“旅”シリーズの素描では、『Hong Kong』(1965~1966)の夜景など、世界各国を見て回ることができます

 

ミュージアムショップでは、ポストカードやタンブラーなどのオリジナル商品が並んでいます

 

予備展示室では今回、「河内文夫素描展」を開催しています。“旅”シリーズの素描展です。絵を描くことに生涯を捧げた河内さんは、一人で、時には小出さんも一緒に度々海外へ取材旅行に出掛けました。その最初の旅が1965年、26歳のときです。横浜港から出発して1カ月もの一人船旅をし、フランスのマルセイユ港に到着。おもにスペインを回り、帰国途中に数カ国へも寄り道しながら各地でスケッチを描きました。それが数百枚も遺されていたので、その中から小出さんが厳選したものを展示しています。香港・シンガポール・スペイン・エジプトなど、各国の情景を切り取った素描を見て回ると、まるで旅をしている気分になります。
情報過多の今を生きる私たちは、実際に訪れたことがなくても、その国、その街を見聞きして知っています。しかし、河内さんの目を通して描かれた約50年前の異国の地には、私たちの知らない世界が潜んでいます。物語の一編を切り取った挿絵のように感じる素描を見るうちに、その奥にある当時の暮らし、物語の続きを探して引き込まれ、想像がどこまでも広がっていきます。

 

エントランスにある立派な「知足美術館」「知足」ハンコを、訪問記念に手帳に押してみてはいかが?!

 

2人の名前を掲げ「夫婦の絆」と題しながらも、8~9割を河内さんの作品が占める同展。亡き夫の作品をたくさん見てもらいたいという小出さんの思いが伝わってきます。同じ道を志し、ともに歩んできた夫婦の“絆”が、会場全体から静かに心に響いてくる同展に、この夏足を運んでみてはいかがでしょうか。

 

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インフォメーション

知足美術館は、株式会社キタックが蒐集、また寄贈された美術品を広く一般の方にも見てもらうため、1995年に本社新築・移転をした際に別棟で開館した美術館です。歌川広重の保永堂版『東海道五拾三次』全55図のほか、新潟県出身、県に縁のある作家、国内著名作家作品など約800点を所蔵。約2カ月毎に展示替えを行っています。

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●アクセス

新潟市中央区新光町10番地2 技術士センタービル別棟2階
TEL 025-281-2001
JR新潟駅南口からバス、「県庁」下車徒歩5分

詳しくは、下記オフィシャルサイトをご覧ください。

http://chisoku.jp

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