ポール・デルヴォーが手掛けたペリエ邸扉絵が一堂に~ヤマザキマザック美術館「ポール・デルヴォーとベルギー近代絵画」展

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名古屋市東区のヤマザキマザック美術館で、9月23日(火・祝)まで開館4周年記念展「ポール・デルヴォーとベルギー近代絵画——近代によみがえる古代の夢——」展が開催されています。

 

ポール・デルヴォーは、20世紀のシュルレアリスム(超現実主義)絵画を代表する画家です。デルヴォーが室内装飾を手掛けた、ベルギー・サベナ航空社長ジルベール・ペリエ邸客間の扉絵4点は圧巻。さらに姫路市立美術館のベルギー近現代美術コレクションの中から、デルヴォーの絵画・版画作品20点、フェルナン・クノップフ、ジェームズ・アンソール、ルネ・マグリットらの作品23点を展示し、ベルギー近代絵画の魅力を紹介しています。

 

展示室によって壁紙の色が異なり、展示する作品も変えている。写真は“黄色の部屋”

 

フェリシアン・ロップス「古い物語」1867年(姫路市立美術館)

 

展示室の初めの部屋は、企画展とは別にヤマザキマザック美術館が所蔵する絵画が展示されています。18世紀のロココ芸術を彷彿とさせる“赤の部屋”で、20世紀の印象派などフランス美術を彩る数々の作品を味わってください。

 

奥の“黄色の部屋”へ進むと、企画展の始まりです。導入として、まずはベルギー近代絵画から。これらは印象派と同時代のもので、フランス美術の影響を強く受けています。また、ほぼ同時期にはヨーロッパ全土に象徴主義も展開されており、ベルギーの近代絵画はそれらを取り入れつつ、独自に個性豊かな作品を生み出していきました。

 

フェルナン・クノップフ「ヴェネツィアの思い出」1901年頃(姫路市立美術館)

 

フェルナン・クノップフ「女性習作」1900年頃(姫路市立美術館)

 

主な作品を観ていきましょう。フェリシアン・ロップス「古い物語」では、仮面を手に持ち、それを顔の前に掲げる女性が描かれています。やや奔放に見える素顔と、上品な淑女を思わせる仮面。「永遠の喜劇」という別名も付けられており、ロップスの女性観を表したものではないかと言われています。また、象徴主義と言えば、フェルナン・クノップフが代表的でしょう。生涯溺愛した6歳年下の妹マルグリットをモデルにすることが多く、「ヴェネツィアの思い出」「女性習作」にもマルグリットの面影があるようです。クノップフの作品には油彩以外のものも多く、これらも鉛筆や色チョーク、パステルが使われています。小品ながら、完成度の高い作品です。

 

日本でも人気が高いルネ・マグリットも見逃せません。「幕の宮殿」「宝石」など、マグリットの作品には独特の不思議な世界が広がっています。クスリと笑ってしまうユーモアを漂わせるのが、大砲と剣玉を合わせたような人物が火を噴いている「観光案内人」。一見、これがなぜ観光案内人なのか分かりませんが……この絵の原題は“キケローネ”で、これは“古代ローマの雄弁家キケロ”のこと。実はイタリアの観光案内人がおしゃべりだということを暗に言っているのでないか、ということが分かります。

 

フェルナン・クノップフ「ブリュージュにて 聖ヨハネ施療院」1904年頃(姫路市立美術館)

 

ウィリアム・ドゥグーヴ=ド=ヌンク「夜の中庭あるいは陰謀」1895年(姫路市立美術館)

 

さて、いよいよ“青の部屋”でポール・デルヴォーの作品です。デルヴォーは裸の女性、駅、電車、骸骨などを題材にすることが多く、背景には古代ギリシャの神殿がよく用いられています。時間を超越した幻想的な作品を多く残しました。また、描く女性たちの目が皆大きく、無表情であることも特徴です。友人だった作家クロード・スパークの小説『鏡の国』のために描いた挿絵も興味深い作品の1つ。死んだ妻を剥製にする男の話で、その妻(の剥製)の無表情さがデルヴォーの作風に非常に合っています。

 

最後はペリエ邸の迫力ある、そして美しい扉絵。姫路市立美術館所蔵の3点とヤマザキマザック美術館の1点を同時に観られる機会はなかなかありません。しかも、市松模様の床や扉周りの装飾など展示室は往時に近い形で再現されており、ペリエ邸の雰囲気を体感できるのも魅力です。本展では特別に、ベルギーにあるポール・デルヴォー財団からペリエ邸装飾画の下絵4点も出品されています。これらの下絵作品は日本初公開! 扉絵と下絵との違い、下絵からどう変わったかを観てみると面白いでしょう。下絵に飛び散って残っている絵の具、油染みもチェックポイントです。

 

ポール・デルヴォーの扉絵。左から「立てる女」(姫路市立美術館)、「二人の女」(ヤマザキマザック美術館)、「女神」(姫路市立美術館)いずれも1954

 

ヤマザキマザック美術館外観。地下鉄の駅から直結、街中の非常に便利なところに位置する

 

会期中、デルヴォーやベルギー美術、シュルレアリスム美術が専門のゲスト学芸員によるギャラリートーク(7月20日、8月3日、8月17日:3日とも日曜日)、ヤマザキマザック美術館学芸員によるガイドツアー(第2・第4土曜日)を行っています。7月27日(日)にはナイトミュージアムとして、ベルギーの名ヴァイオリニスト、ウジェーヌ・イザイが作曲した作品を演奏する「弦楽四重奏コンサート」(有料)も開催。ぜひ、こちらもお楽しみください。

 

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インフォメーション

ヤマザキマザック美術館は、初代美術館館長・山崎照幸の収集したフランス美術のコレクションを公開するため、美術館として2010年4月23日にオープンしました。ロココの時代からから印象派、エコール・ド・パリまで、18世紀から20世紀に至るフランス美術300年を一望できる構成になっています。絵画作品およびアール・ヌーヴォーのガラス工芸品、家具などの常設展示を中心に、所蔵作品に関連した展覧会や講演会、演奏会などを開催し、社会に潤いを与える文化活動を発信しています。

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●アクセス

名古屋市東区葵1-19-30
TEL 052-937-3737
地下鉄東山線「新栄町」駅1番出口直結

詳しくは、下記オフィシャルサイトをご覧ください。

http://www.mazak-art.com/

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