茶道具に見る造形の美~昭和美術館「茶人のデザイン」展

0

名古屋市の昭和美術館では、7月6日(日)まで「茶人のデザイン」展を開催しています。茶の湯(茶道)では、侘び茶の創成期から現在に至るまで、茶人たちが点前にふさわしい道具を自らデザインしたり、時には制作したりするなどして工夫を凝らしてきました。本展では、そのような茶人たちがデザインした茶道具や、茶の湯の点前について書かれた書など約60点を紹介しています。

 

本館1階展示室。企画展は、上期展・下期展・新春展と1年に3回行なわれている

 

2階展示室へと続く階段。洋館風で、庭園の雰囲気と相まってロマンチックな雰囲気が漂う

 

展示は、唐物(からもの:中国からの輸入品)から始まります。茶の湯と言えば日本を代表する伝統文化ですが、実は奈良時代から平安時代にかけて中国から伝わったものです。そもそも茶の湯は、中国の僧侶たちが、眠気を覚ますためにお茶を飲んでいたことがはじまり。禅宗と深い関わりがあり、それらを日本から中国へ渡った留学僧や、中国から来日した渡来僧などが日本に伝えたと言われています。当時はまだ格の高い、限られた人たちの貴重なもので、茶道具も実用より観賞用としての面が色濃く出ていました。

 

遣唐使の廃止によって中国との交流は一時途切れますが、鎌倉時代には再び活発になり、お茶も日本に定着していきます。それに伴い、これまで中国のものをそのまま利用していた茶道具にも、日本らしさが加わるようになりました。そうして日本独自の茶道具、茶の湯を完成させたのが、かの有名な茶人・千利休(せんのりきゅう)です。利休の茶道具を見てみると、例えば茶碗一つをとっても全体に柔らかみがあり、手になじむように作られていることが分かります。また、お茶を入れる茶器の一種である棗(なつめ)は美しい木製の黒漆塗りで、やはり丸みのあるデザインが特徴です。

 

紹鴎所持 龍耳胡銅花入/中国明時代(展示期間:全期)

 

遠州黒茶碗 銘「垣根」/桃山時代(展示期間:5/9~7/6)

 

利休の弟子の一人で「織部焼」でも知られる古田織部(ふるたおりべ)は、シンプルで落ち着いた利休のデザインとは対照的に、動的で線対称を崩した破調の美が魅力です。一見まるで違った道に進んだように思えますが、茶の湯の心得や作法について書かれた「織部百ヶ条」を読むと、利休と共通する部分も多くあります。その辺りの違いや共通点を、作品を通して見てみるのも面白いかもしれません。

 

織部の弟子である小堀遠州(こぼりえんしゅう)の作品も、並べて展示されています。遠州は、茶の湯だけでなく和歌や書、華道、建築と幅広い分野で文化的リーダーとして活躍した人です。中でも書においては、鎌倉時代の歌人・藤原定家の書体を習得し、茶の湯にも取り入れました。そのため彼の茶道具には、和歌や源氏物語など古典から取った銘が付けられたものが多くあります。

 

遠州好菱馬水指/中国明末~清初期(展示期間:全期)

 

茶杓 銘「弱法師」/千宗旦 作/江戸時代初期(展示期間:全期)

 

唐物から始まった展示は、時代を追いながら「最後の大茶人」と呼ばれた益田鈍翁(ますだどんおう)まで続きます。鈍翁は、三井物産の初代社長。大正時代に三井財閥を引退後、茶人として余生を過ごしました。邸宅内に窯を開き、職人も何人か抱えていたと言いますから驚きです。陶芸家の大野鈍阿(おおのどんな)はそうした職人の1人で、鈍翁の指導のもと、彼のコレクションである楽焼の茶碗や鉢などの写しを繰り返し作ったとか。その鈍阿作の茶入れ「白雪」は要注目です。

 

普斎伝書/杉木普斎 筆/江戸時代初期(展示期間:全期)

 

「南山寿荘」裏手。江戸時代、堀川沿い(現在の名古屋市熱田区辺り)に建てられた尾張藩家老・渡辺規綱の別邸の一部を、昭和10年頃に現在の地に移築した

 

そのほか、「茶杓(ちゃしゃく:お茶をすくうさじ)」も見どころです。もとは中国で使われていた薬をすくうさじで、象牙製、角製、木製などがあり、さらに仕上げも木地や塗物などさまざまですが、一般には竹が多く用いられています。作り方が比較的やさしいため、茶人自らの手によるものも多く、それぞれ造形に個性があります。例えば、千利休の茶杓は竹の節があえて真ん中に置かれ、先端が丸いなど。見過ごしてしまいそうな細かな部分にも、各人の茶の湯に対する姿勢や好みが表れており、実に奥が深いと言えるでしょう。

 

緑に囲まれた閑静な住宅街に建つ。茶室「南山寿荘」(「捻駕籠の席」除く)、「有合庵」と別館は貸し出しもしている

 

作品を追っていくと、唐物に始まる茶道具が、少しずつ形を変えながらも、現在まで脈々と受け継がれてきたことが分かります。造形の持つ美しさ、そしてそれらを生み出した茶人たちの美意識に、今に通じる普遍性を感じるに違いありません。地味なイメージのある茶道具ですが、デザインのもととなった背景などとあわせることで、より興味深く、これまでとは違った視点から見ることができるでしょう。

 

[su_note note_color=”#f6f6f6″]
インフォメーション

昭和美術館は、名古屋の実業家、後藤幸三が長年にわたり収集した書・茶道具を中心とした約800点(内重要文化財3点)の収蔵品を保存・公開するため、1978年(昭和53)に開館しました。2,200坪の敷地内には、池を中心に3席の茶室が点在しており、そのなかの1席である愛知県指定文化財・南山寿荘(なんざんじゅそう)内の茶室「捻駕籠(ねじかご)の席」は内部見学も可能です(要予約)。自然林を生かした風情ある庭園の散策も楽しめます。

[/su_note]

 

[su_note note_color=”#f6f6f6″]
●アクセス

名古屋市昭和区汐見町4-1
TEL 052-832-5851
地下鉄鶴舞線「いりなか」駅下車、徒歩13分

詳しくは下記オフィシャルサイトをご覧ください。

http://www.spice.or.jp/~shouwa-museum/

[/su_note]