「関口美術館」で楽しむ柳原義達の世界

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東京・葛西の住宅街にある「関口美術館」では、春休み展覧会『柳原義達の世界と滝川啄史展』を4月20日まで開催しています。戦後の日本を代表する彫刻家の一人として知られる柳原義達と、彼の弟子である滝川啄史の彫刻作品を本館と東館の両方で楽しむことができる企画展です。

 

住宅街のマンションの1階にある「関口美術館」本館

 

建築家 庭の向こうから近所の子どもたちの声がほどよく聞こえてきて、生活の中にある美術館を実感します

 

関口美術館は、通常は『柳原義達の世界展』を常設展示していて、柳原義達のコレクションで知られる美術館です。関口雄三館長と柳原義達作品との出会いは約30年前。関口館長が個人事務所を構え、建築家としてがむしゃらに突き進んでいたときのことです。『道標-風と鴉-(1966年)』をはじめて目にしたとき、鴉(カラス)が何かに立ち向かっているかのような姿と自分の姿が重なって見え、強く惹かれたそうです。友人を介して柳原義達自身とも会うことができ、以後、1つずつ作品を蒐集してきました。

 

       建築家でもある関口雄三館長

 

関口館長がはじめて柳原義達と出会った思い出の作品『道標-風と鴉-(1966年)』

 

今回の展覧会では、本館に風の中で耐えているものなどさまざまな姿かたちの鴉の彫刻が展示されています。それらは『道標』と名付けられ、鴉をモチーフにした一連のシリーズです。道標とは、作品を見る人へ何らかの方向性を示すということなのか、もしくは柳原義達自身が一生懸命生きること等の何らかのメッセージを鴉の中に感じていたのか、そのタイトル一つにも考えさせられるシリーズです。
東館には、同じく『道標』シリーズでも鳩(ハト)をモチーフにした作品が展示されていますが、こちらは鴉とは異なり、慈しみながらつくられたように感じる作品です。

 

柳原義達の作品で、タイトルに興味をそそられる作品が他にもあります。代表作の1つである『犬の唄(1961年)』です。「裸婦像なのに犬の唄?」と誰しも思うでしょう。後ろ足で立って前足を曲げて犬が飼い主に媚びるように、普仏戦争敗戦後にフランス人がドイツ人に媚びながらも抱いていた抵抗心。それを歌って大流行したシャンソンのタイトルからこの作品名は来ています。一見、明るいタイトルが付けられた裸婦像のように思いますが、敗戦後、柳原義達も経験した屈辱、抵抗心などの気持ちがこのタイトルには込められているのです。

 

関口館長がはじめて入手した作品は、柳原義達自身のおすすめ作品『風の中の鴉(1981年)』

 

    柳原義達の代表作の1つ『犬の唄(1961年)』

 

強いメッセージを発する鴉と、慈愛に満ちた雰囲気の鳩、哀しい背景がある裸婦像。関口美術館を後にしてもそれらの作品が頭から離れず駅までの道を歩いていると、鴉と鳩を偶然見かけました。道標シリーズの影響でしょうか、自然と鴉や鳩の中に何かを見つけ出そうと注目してしまいました。今後も鴉や鳩を見かけるたびに、柳原義達の彫刻作品、関口美術館のことを思い出すことでしょう。

 

このように鮮明に記憶に残る柳原義達コレクションには、もちろん惹かれますが関口美術館は館自体にも違った魅力があります。
「日本は“生活美”を失いました。昔は床の間があり、書を飾ったり、花を生けたり、香を焚いたりして、家の中に美術館がありましたが、経済成長のなかでそれは失われてしまいました」。このように感じていた関口館長が、“生活美”をテーマにオープンさせたのが関口美術館です。「生活の中に芸術があり、コーヒーを飲みながら1つの作品をゆったり眺め、何かを感じ取る。美術館はそうでないといけない」との考えのもと関口美術館はつくられたので、緑ゆたかな庭で、のんびりお茶を飲みながら作品を鑑賞することができます。住宅街に面しているので、外からは子どもの声や車の音、生活音が聞こえてきて、日常の中で自然に芸術と接していることがはじめは不思議ですが、しだいに居心地が良くなっていきます。

 

            本館から徒歩2分の場所にある東館

 

通常は本館の庭に展示されている柳原義達の「鳩」たちが、今回は東館屋内で羽をのばしています

 

美術館が入っている建物は上がマンションになっていて、それを手掛けたのは、関口館長が代表を務める建築設計事務所です。芸術と庭がコンセプトになっていて、屋上では家庭菜園が楽しめ、関口美術館には無料で入館できるというのですから、なんともうらやましい限りです。まさに生活の中に芸術があるといえるでしょう。関口美術館は、マンション住民だけでなく地域の人々の安らぎの空間ともなっています。

 

東館2階には主に滝川啄史の彫刻作品が展示されています

 

春休み展覧会のため、期間内は高校生以下無料です。ぜひこの機会に、お子さん、お孫さんと一緒に芸術に触れに訪れてみてはいかがでしょうか。

 

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インフォメーション

関口美術館は、「生活美」と「アーティスト支援」をテーマに2003年にオープン、常設展「柳原義達の世界」を行っています。また、2008年には本館から徒歩2分の場所に東館をオープンしました。

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●アクセス

(本館)
東京都江戸川区中葛西6-7-12 アルトジャルダン1階
TEL 03-3869-1992
(東館)
東京都江戸川区中葛西6-15-7
TEL 03-3687-6595
地下鉄東西線「葛西駅」より徒歩10分
詳しくは下記オフィシャルサイトをご覧ください。

http://www.bbcc.co.jp/museum/

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