人生の旅を親子で体験~名古屋市美術館「親子で楽しむアートの世界 遠まわりの旅」

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人生は、楽しいことや苦しいこと、出会いや別れなど、さまざまな出来事の連続です。そのつど迷うことも多く、まるで迷路のように感じる人もいるのではないでしょうか。そんな人生を旅にたとえ、「人生を旅する」をテーマにした展覧会が名古屋市美術館で開かれています。「親子で楽しむアートの世界 遠まわりの旅」(3月30日<日>まで)。体験型の巨大作品もあり、大人はもちろん、子どもも楽しめる構成になっています。

 

話が聞こえてきたり、自分の声が少し遅れて聞こえたりする、たくさんの管も作品(D.D.「遅延/伝声管」2014年)

 

ソフィ・カル「盲目の人々」。目の不自由な人たちの“美しいもの”を作品にしている。会場のあちこちに展示

 

1階は「人生を見つめ直す」がキーワード。まず初めに、蝶の冒険や旅情を描いた三岸好太郎「筆彩素描集《蝶と貝殻》」、見る者が自由に物語を想像できるマックス・クリンガー「手袋」などで、旅の始まりを感じてください。そして、奥に続く数々の作品を通し徐々に“生と死”に向き合っていきます。

 

フリーダ・カーロの「死の仮面を被った少女」は、彼女自身が流産した子どもを描いたものと言われています。ここでは少女が手に持っている花、マリー・ゴールドに注目です。カーロはメキシコ出身ですが、同国では、マリー・ゴールドは死者を道案内する花なのだとか。また、メキシコと言えば興味深いのが、その死生観。死は、決してタブーではありません。それがよく表れているのが、ホセ・ガダルーペ・ポサダによる版画です。人がすべて骸骨として描かれており、しかもユーモラス。これには“金持ちでも貧乏人でも、いつかは皆死んで骸骨になる。死は平等に訪れる”とのメッセージが込められています。

 

D.D.「昼の目 夜の目」(2014年)。入口から覗くと先が見通せるようだが、実はなかなか出られない

 

ホセ・ガダルーペ・ポサダの版画の数々。死を笑い飛ばそう!今を生きることが大事だ、との意も

 

アーチスト・ユニットD.D.による体験型の作品「昼の目 夜の目」もおすすめです。作品自体が巨大な迷路になっており、闇の中を手探りしたり、障害物を乗り越えたり、トンネルを潜ったりと、人生と同様にさまざまな状況を乗り越えながら、他の作家を含む多くの作品を鑑賞していきます。子どもよりも大人のほうが、途中で息が切れるかも。美術作品の鑑賞ということを忘れるほど楽しめるに違いありません(この作品に限り、土曜・日曜・祝日は整理券を配布)。

 

2階のキーワードは「人生の旅に出る」。“鏡の世界”で、自分自身を見つめます。水に映る自分を愛するギリシャの美青年ナルシスを描いたオノレ・ドーミエの「『古代史』より「うるわしのナルキッソス」」、そして、そのナルシスに恋いこがれながら報われず木霊となった少女エコーを描いたポール・デルヴォーの「こだま(あるいは「街路の神秘」)」などは、2人の物語を知って見るとちょっぴり切ない気持ちに。一方で、タマゴを描いた連作、浅野弥衛の「タマゴのMetaphor 2,3,4,7,8,9,9’」は、実に可愛らしくユーモアに富んだ印象を受けます。しかし、その中にも人生や旅といったものを感じることができるでしょう。

 

浅野弥衛「タマゴのMetaphor」連作。黒をバックに、白いタマゴと線を組み合わせたエッチング

 

ピンクの男根からなる草間彌生「ピンク・ボート」(1992年)。強烈な内的世界、エロチシズムが爆発

 

の体験型作品は、2階にもあります。「遅延/鏡の回廊」がそれで、鏡に映る自分の後ろ姿を見ながら回廊を歩くという体験です。これには“自分の姿を追い続ける=夢を追い続ける”などの意味があるそうです。狭い部屋の中ですが、友達や親子一緒ではなく、1人で入ることをおすすめします。より、その意味を感じることができるでしょう。

 

原爆の炸裂する瞬間を描いた、岡本太郎「明日の神話」(1968-69年)。東京・渋谷駅の連絡通路にある壁画の原画

 

荒川修作「眠っている断片 No.1」(1959<1986>年)。“死を乗り越える”ことを考え続けた名古屋市出身の作家

 

旅の終わりは、未来への希望が込められています。例えば、岡本太郎の「明日の神話」からは悲劇に負けない生命力を、ダビッド・アルファロ・シケイロスの「クアウテモックの肖像」からは不屈の精神を。河口龍夫の「DARK BOX 2008」は、鉄製の箱に闇を閉じ込めることで逆にその存在を、未来へのメッセージを意識させる作品です。荒川修作の「眠っている断片」も、死を見つめることで、今を生きていることの大切さを考えさせる作品だと言えます。そして最後は、お母さんのおっぱいを飲む赤ちゃんの写真。皆さんは、そこから何を感じるでしょうか。

 

ティナ・モドッティ「アステカの赤子」(1926-27年頃)。赤ちゃん=生命力、とも受けとめられる

 

名古屋市美術館は、地元出身の建築家・故黒川紀章氏の代表作。名古屋市科学館とともに白川公園内に建つ

 

今回の展覧会は、作品鑑賞だけでなく、実際に体験できるというのがポイント。これまでとはひと味違った美術館を楽しむことができるでしょう。親子で、家族で、友達同士で、ぜひ気軽に足を運び、人生について考える機会にしてください。

 

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インフォメーション

名古屋市美術館は、近代美術館として「地域の美術文化活動の足跡がたどれるように」との視点から、郷土作家の作品「郷土の美術」を収集することから出発しました。のちに「エコール・ド・パリ」「メキシコ・ルネサンス」「現代の美術」と範囲を広げ、現在ではこれら4つの収集方針に沿って、約5,000点のコレクションで形成されています。特別展は1階と2階で開催され、常設展示室は地下1階に設置。また、美術館教育にも力を入れており、学校・団体向けプログラムも用意しています。

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●アクセス

名古屋市中区栄2-17-25
TEL 052-212-0001
地下鉄東山線・鶴舞線「伏見」駅下車 徒歩8分、鶴舞線「大須観音」駅下車 徒歩7分、名城線「矢場町」駅下車 徒歩10分
詳しくは下記オフィシャルサイトをご覧ください。

http://www.art-museum.city.nagoya.jp/

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