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神様辞典 いろいろな産業、仕事を見守る神々

第16章 衣通姫(そとおりひめ)~容姿の美しさと和歌の才能に恵まれた女神

“天地のひらけはじまりける時”に生まれて以来、人の心を表現する手段として愛されてきた和歌。教養ある人々にとってたしなみのひとつとされ、恋心を伝える手段としてもなくてはならないものだったようです。高貴な女性の顔を見ることや、直接言葉をかけることが禁じられた奥ゆかしい文化が、日本には根づいてきたからです。

長い歴史において、いくつかの種類の和歌が存在しましたが、現在では5・7・5・7・7の31音で構成される短歌のみを指すようになりました。和歌のことを「倭歌」と書いて、「やまとうた」と読むことがあります。

≪情熱的な悲恋の美女「衣通姫」≫

衣通姫は古代有数の美女でした。その名は「肌の色艶が衣を通して光り輝くような容姿の美しさ」に由来します。豊かな知性をも兼ね備えた姫は、和歌の才能に恵まれていました。常識にとらわれない恋に身を焦がしました物語が、『古事記』や『日本書紀』に遺されています。

『古事記』では、天皇の后である忍坂大中津姫(おしさかのおおなかつひめ)の子、軽大郎女(かるのおおいらつめ)として登場します。軽大郎女は同母兄である木梨軽太子(きなしのかるのたいし)と愛し合う仲になりました。当時、同母兄妹姦は罪でした。彼女が追放の身となった後、再会を果たした二人は心中する悲恋の物語です。

『日本書紀』においては、皇后の妹として登場します。彼女が天皇の寵愛を受けると、それに嫉妬した姉に邪魔をされるようになってしまいました。自由に会うことができなくなった恋人を慕って、熱い胸の内を和歌に託したと伝えられています。

≪「和歌三神」の一神となる≫

衣通姫は和歌の道を目指す人の守護神として祀られてきました。近代、柿本人麻呂、山部赤人と並んで和歌三神の一神とされることもあります。

若くして和歌の才能を発揮した柿本人麻呂は、生前は飛鳥時代の宮廷歌人として天皇に仕え、死後に神として祀られました。また奈良時代前期の歌人である山部赤人は、自然美を詠みました。いずれも、日本最古の歌集『万葉集』にたくさんの作品が遺されている歌人です。

≪海の神、住吉明神と言霊≫

住吉明神も和歌の神様として知られています。「住吉大神」「住吉三神」「筒男三神」などいくつもの呼び名があります。黄泉(よみ)の国から戻った伊邪那岐命(いざなぎのみこと)が海辺で穢(けが)れを落としたときに生まれた底筒男命(そこつつのおのみことめ)、中筒男命(なかつつのおのみこと)、表筒男命(うわつつのおのみこと)の三神を指しています。

和歌は神と人が交信する手段として使われてきました。神様はあらゆる自然の中にいらっしゃると信じられてきたのです。そう考えると、もとは海の神であった住吉明神が、いつしか和歌の神にもなられたことはそれほど不思議ではないでしょう。

神が人に授けた「言霊(ことだま)」を、和歌と呼んでいた時代があります。そのため、昔から言葉には霊的な力が宿ると信じられてきました。「良き言の葉は良きものを招き、悪き言の葉は災いを招く」とされています。

≪衣通姫の祀られている神社≫

玉津島神社/和歌山県、境の明神(玉津島神社)/福島県など

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【参考資料・web】

「『日本の神様』がよくわかる本(戸部民夫著)」PHP文庫
「頼れる神様大事典(戸部民夫著)」PHP研究所